研究成果の紹介
バイオサイエンス研究科植物成長制御研究室の梅田正明教授らが、植物の器官サイズを適度に保つ制御機構を解明
バイオサイエンス研究科植物成長制御研究室の梅田正明教授らは、植物が器官の大きさを一定に保つために、細胞増殖を適度に抑える仕組みをもつことを明らかにした。この研究成果は平成25年4月9日付けでPLoS Biology誌に掲載されると共に、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞などで取り上げられた。
梅田正明教授のコメント
この論文の主要な部分は、昨年本研究科を卒業した信澤岳さんの実験結果です。研究の過程で脂肪酸が関連していることがわかった時点で、私は門外漢なので別の研究テーマを勧めましたが、信澤さんが実に粘り強く実験に取り組んだ結果、思いがけず全く新奇な器官サイズの制御機構が見えてきました。研究において「しぶとさ」が如何に大切かを改めて思い知らされました。本研究では、理化学研究所の榊原均博士や日本女子大学の永田典子博士のご協力も頂きました。この場を借りて、深く感謝申し上げます。
研究の概要
【研究背景】
生物が器官の大きさを一定に保つ機構は未だにあまり解明されていない。植物においては、細胞壁による物理的な力が器官の成長を制御することは知られていたが、異なる細胞間のシグナルのやりとりにより細胞増殖や器官成長が制御されるメカニズムについては全く知見がなかった。
【結果】
植物の体表面はワックスで覆われており、病原菌の感染や水分の蒸発を防いでいる。極長鎖脂肪酸はワックスの成分として重要であり、その合成を阻害するとワックスの生成ができなくなるため、植物の成長は著しく阻害される。ところが、私達は極長鎖脂肪酸の合成をわずかに阻害すると成長阻害が起こらないばかりか、葉などの器官サイズが大きくなることを見出した(図1)。そこで、この現象をさらに詳細に解析したところ、極長鎖脂肪酸の合成阻害によりサイトカイニン合成遺伝子の発現が上がり、サイトカイニンの量が増加することが明らかになった。サイトカイニンは地上部器官の細胞増殖を促進する植物ホルモンなので、通常は極長鎖脂肪酸がサイトカイニン合成を抑えることにより細胞増殖を適度に抑制し、器官サイズが必要以上に大きくなることを防いでいると考えられた。
ここで興味深い点がある。極長鎖脂肪酸は表皮のみで合成されるのに対し、サイトカイニン合成遺伝子は維管束のみで発現しているのである。つまり、表皮で合成される極長鎖脂肪酸が、何らかのシグナルを介して維管束でのサイトカイニン合成を抑えていることになり、器官の成長が表皮(表面)と維管束(中心軸)の相互作用でコントロールされるという、器官成長の仕組みとして極めて新しいメカニズムが明らかになった。
【本研究の意義】
極長鎖脂肪酸の合成阻害剤を用いることにより器官サイズを大きくすることができることから、化合物を用いた植物バイオマスの増産技術の開発に繋がると考えられる。バイオ燃料やバイオプラスチックの原料となる植物素材の増産に利用すれば、光合成による二酸化炭素の効率的な資源化に貢献できるであろう。また、これまで動植物を通じて殆ど明らかにされていない器官サイズを決める機構の一つが明らかになったので、植物の形態を自在に操る技術開発にも繋がると考えられる。
図1
(2013年04月23日掲載)