研究成果の紹介
池田陽子博士が第3回日本エピジェネティクス研究会年会長賞を受賞しました
日本エピジェネティクス研究会は、全国のエピジェネティクスの研究者が学問背景や分野を超えて交流する会として発足しました。酵母などを用いて基本的な機構を解析する研究者から、臨床検体を用いて医学への応用を志す研究者まで、大いに情報交換できる会を目指しています。
年会長賞は若手研究者の育成のためのもので、ポスター応募の若手(35才以下)の中から数名が選ばれるものです。
受賞コメント
この度は、このような賞を頂くことができ、大変嬉しく思っております。ゲノムインプリンティングという興味深い現象について、共に研究するチャンスを与えて下さった木下哲先生、支えて下さった研究室の方々、研究の場を与えて頂いた奈良先端大に感謝いたします。これを励みに、今後もさらにこの研究を発展させていけたらと思います。
受賞内容
2倍体で有性生殖をする生物は、通常、メンデルの法則に従って父由来と母由来の対立遺伝子の両方が発現しますが、ある特定の遺伝子のみ、メンデルの法則に従わず、父親、母親のどちらから遺伝したかに従って、機能が異なることが知られています。このような現象をゲノムインプリンティング(遺伝的刷り込み)と呼び、この現象はDNAメチル化などの、DNA塩基配列によらない「エピジェネティックな」情報により制御されています。植物では、ゲノムインプリンティングは胚乳でのみ観察されており、この確立には、受精前の中央細胞(受精後、胚乳を形成する雌側の組織)においてDNAが脱メチル化されることが重要であることが報告されています。しかしながら、DNA脱メチル化のメカニズムはこれまでほとんど明らかにされていませんでした。今回、我々は、インプリントを受ける遺伝子であるFWAの発現を、GFP蛍光によりシロイヌナズナで可視化する系を用いて、インプリントが異常になる変異体を同定しました。この変異体の原因遺伝子は、遺伝子の発現状態を制御する、クロマチンの構造変換に関わる因子をコードしていたこと、この変異体では、FWA遺伝子のDNA脱メチル化がみられないことから、DNA脱メチル化にクロマチンの構造変換が必要であると考えられます。
(図1) alarm clock for FWA imprinting(alac)変異体の表現型
alac1-1 ヘテロ植物では、半数の胚乳でFWA-GFPの蛍光が消失しており、ゲノムインプリンティングに異常がみられた。
(図2) ALAC1による植物におけるインプリント遺伝子のDNA脱メチル化
クロマチンの凝集とDNAメチル化により発現が抑制された状態から、クロマチン構造変化に関わる因子をコードするALAC1を介してDNAが脱メチル化され、転写が活性化されると考えられる。
関連する論文
- Yoko Ikeda and Tetsu Kinoshita 「DNA demethylation: a lesson from the garden.」, Chromosoma, vol 118, no 1, pp37-41, 2009
- Tetsu Kinoshita, Yoko Ikeda and Ryo Ishikawa 「Genomic imprinting: A balance between antagonistic roles of parental chromosomes」, Seminars in Cell & Developmental Biology, vol 19, Issue 6, pp574-579, 2008
(2009年06月01日掲載)