研究成果の紹介
中畑泰和助教が持田記念研究助成対象者に選ばれました
遺伝子発現制御学講座の中畑泰和助教が公益財団法人持田記念医学薬学振興財団の持田記念研究助成対象者に選ばれました。本助成は、生命科学を中心とする医学、薬学及びこれに関連する物理学、化学、工学、生物学等の先見的独創的研究、かつ、これらの成果を総合して医療をはじめとするヘルスケアへの応用研究を助成し、わが国の医療及び国民の保健の向上に資することを目的とするものです。
助成受託のコメント
この度、公益財団法人持田記念医学薬学振興財団からの研究助成金を頂くことになり、大変感謝いたします。この助成金を有効に活用し、さらなる研究の発展を目指したいと思います。
助成受託研究テーマ
概日時計によるNAD+代謝制御とその破綻による老化関連疾患発症メカニズムの解析
近年の分子生物学・遺伝学的研究より、概日時計はただ睡眠・覚醒リズムを支配するだけの機構ではなく、関連した複数の生理機能が最も効率的に働くために酵素活性などを同調させる機構であることが明らかになりつつある。また、概日時計の破綻は代謝性疾患や早老など種々の老化関連疾患を引き起こすことも知られている。そこで、「概日時計機構」=「生体のシステム全体を統合する機構」と考え、概日時計機構の観点から老化の分子メカニズムの解明に挑戦し、老化関連疾患の発症メカニズムを理解し、さらには老化関連疾患の予防・治療薬の開発を目的としている。
近年私は、概日時計機構を制御する酵素として、老化や代謝に関わる制御因子として注目されているNAD+依存性Sirtuinファミリー脱アセチル化酵素“SIRT1”を同定した。SIRT1はその脱アセチル化活性に約24時間の周期性を示すことで概日時計を制御していることを明らかにした。さらに、SIRT1の約24時間周期の活性変動はNAD+合成経路の律速酵素であるNAMPT/Visfatin/PBEFと呼ばれる遺伝子、それによる細胞内NAD+量が約24時間周期で変動するためであることを見出した。これら一連の報告は、概日時計とエネルギー代謝に関連した分子の相互作用を初めて明らかにし、『概日時計』『寿命・老化』『代謝』という重要な生命現象を“一元的に結び付ける新規概念”を提示した。
そこで本研究では、これら生命現象における最重要分子NAD+/SIRT1の概日変動異常が引き起こす酵素活性/遺伝子発現異常を分子レベルで明らかにし、概日時計と老化関連疾患発症との関連性およびそのメカニズムの解明を目的とする。
NAD+/SIRT1による概日時計および代謝制御のモデル図
関連する論文
- Nakahata Y, Sahar S, Astarita G, Kaluzova M, Sassone-Corsi P. Circadian control of the NAD+ salvage pathway by CLOK-SIRT1. Science. 2009 324(5927):654-657
- Nakahata Y*, Kaluzova M*, Grimaldi B, Sahar S, Hirayama J, Chen D, Guarente LP, Sassone-Corsi P. The NAD+-dependent deacetylase SIRT1 modulates CLOCK-mediated chromatin remodeling and circadian control. Cell. 2008 134(2):329-340. * Equally contributed to this study
(2010年11月11日掲載)