研究成果の紹介
波平昌一助教が住友財団「基礎科学研究助成」の対象者に選ばれました
分子神経分化制御学講座の波平昌一助教が公益財団法人住友財団の2010年「基礎科学研究助成」対象者に選ばれました。本研究助成は、重要でありながら研究資金が不十分とされている基礎科学研究、とりわけ新しい発想が期待されている若手研究者による萌芽的な研究に対して行われます。
助成受託のコメント
この度、公益財団法人住友財団より、「基礎科学研究助成」を頂くことになり、大変感謝致します。この助成金を有効活用し、さらなる研究の発展を目指して参ります。
助成受託研究テーマ
ニューロンの成熟・発達におけるDNAメチル化酵素の機能解析
哺乳類のゲノムDNAのメチル化は、ゲノムからの遺伝子情報発現を調節する重要なエピジェネティクス制御機構であり、それらはDNA メチル化酵素(DNMT)群によって制御されている。分裂期のDNA 複製におけるDNA メチル化パターンの維持に重要な役割を果たす維持型DNAメチル化酵素DNMT1は、既に分裂を終えた発達期のニューロンにおいても発現していることが知られている。最近では、生後初期の薬剤やストレス等の環境刺激による神経細胞(ニューロン)のDNAメチル化パターンの変化が、遺伝子発現変化を誘導すると共に、成体における行動異常をもたらすことが報告されている。また、Dnmt1遺伝子の異常発現が統合失調症患者脳内において、大脳の特定のニューロンでのみ観察されるという報告がされ、脳神経疾患との関連も指摘されつつある。これらのことは、発達中の非分裂性ニューロンにおけるDNMT1とDNAメチル化の機能解析が、脳疾患との関連解明に非常に重要であるとを示している。しかし、ニューロンを産生する胎生初期神経幹細胞特異的なDNMT1の機能欠損は、細胞内のゲノム全体の低メチル化と伴に過剰な細胞死を誘発し、マウス個体の胎生致死を引き起こしてしまう。そのため、胎生期の神経幹細胞から分化した未成熟ニューロンの移動や神経突起の伸長などの発達過程におけるDNMTやDNAメチル化の役割については、世界的にも全く明らかにされていない。
そこで本研究課題では、未成熟ニューロン特異的にDnmt1遺伝子の欠損を誘導し、その細胞の表現系を詳細に解析することで、非分裂性ニューロンの発達におけるDNAメチル化及びDNMTの機能を解明することを目的とする。具体的には、以下の2つの解析を行う。
- 単一ニューロン成熟過程におけるDNMTの機能解析(in vitro 解析)
- 胎仔大脳皮質内でのニューロン成熟過程におけるDNMTの機能解析(in vivo 解析)
本研究課題は、胎生期から生後直後の発達期ニューロンにおけるDNMTとDNAメチル化の役割を解明し、DNMT1との関連が指摘される統合失調症などの脳の後天的な疾患の治療に貢献し得る生物学的基礎情報を提供することがねらいである。
関連する論文
- Namihira M, Kohyama J, Semi K, Sanosaka T, Deneen B, Taga T, Nakashima K. Committed neuronal precursors confer astrocytic potential on residual neural precursor cells. Dev Cell. 16(2):245-255, 2009.
- Hutnick LK, Golshani P, Namihira M, Xue Z, Matynia A, Yang XW, Silva AJ, Schweizer FE, Fan G. DNA hypomethylation restricted to the murine forebrain induces cortical degeneration and impairs postnatal neuronal maturation. Hum Mol Genet. 18(15):2875-2888, 2009.
(2010年11月17日掲載)