研究成果の紹介
奈良先端大が研究目的での清酒製造ができる免許を取得
~日本酒に関する先進的な研究とその社会実装を加速~
奈良先端大が研究目的での清酒製造ができる免許を取得
~日本酒に関する先進的な研究とその社会実装を加速~
【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)は、2024 年 7 月 1 日付で、学術研究の目的であれば、学内の研究設備にて製品の日本酒まで作ることができる「清酒製造免許」(注 1)を取得しました。これまで日本酒の研究開発は、主に企業で行われており、本学の設備だけで行う研究では、例えば、優れた特性を持つ酵母(注 2)を開発しても、実際に仕込んで製品の清酒の段階まで追跡して成果を検証し、効率よく実用段階での酵母の品質の向上に寄与することが困難でした。今回の免許取得により、日本酒の味わいや香りなどの品質にも関わる先進的な研究と、その社会実装を加速していきます。
【目的】
我が国の伝統的な酒類である「日本酒(清酒)」(注 3)は、国内で根強い人気を誇りますが、近年海外でも新しいファンを集めており、成長産業として今後の発展が期待されています。新しい日本酒を生み出すためには、微生物や、それを使った製造方法を試行錯誤しつつ実際に仕込みを行い研究開発を進める必要があります。しかし、日本酒などの酒類を製造するためには、日本の酒税法により免許を取得しなければなりません。この度、本学が研究目的での「清酒製造免許」を得たことにより、日本酒の研究開発を実施することが可能となりました。
【必要性・発展性】
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 微生物インタラクション研究室では、発酵食品中の微生物のふるまいと相互作用に注目した研究を行っており、微生物の力を活かすことで、おいしくてヘルシーなフードテック(食の最先端技術)への貢献も目指しています。これまでにも、「日本酒の製造に用いられる酵母はなぜ優れた発酵特性を示すのか?」など、身近な発酵食品に潜む謎に挑む独創的な研究に取り組んできましたが、本学では研究成果となる微生物を実際に用いて日本酒を仕込むことはできませんでした。今回の免許取得により、「発酵中の日本酒のもろみの中で働く酵母遺伝子(注 4)とは?」といった研究課題に新たに取り組むことが可能となり、日本酒の味わいや香りなどの品質にも関わる先進的な研究とその社会実装を加速することにつながります。
【社会的意義、波及効果等】
清酒製造免許を有する大学はいまだに多くないことから、「日本酒について学びたい」「発酵食品中の微生物について学びたい」という学生からのニーズや知的好奇心に応えることが可能となります。また、日本酒の研究開発は企業にて行われることが一般的ですが、伝統的な酒蔵や中小企業では研究設備を持たないケースも見受けられます。本学が有する最先端の研究設備・ノウハウと組み合わせることにより、産学連携研究の活性化も期待されます。
【用語解説】
注 1 清酒製造免許:日本の酒税法により定められている、清酒製造を行うための免許。製造しようとする酒類の品目、製造場、製造目的などに応じて、所轄税務署長の免許を受ける必要がある。
注 2 酵母:単細胞性を示す真菌類の総称。アルコール発酵能力を有し酒類の製造に欠かすことのできないSaccharomyces cerevisiae(サッカロミセス・セレビシエ)などの微生物種が含まれる。
注 3 日本酒(清酒):我が国特有の伝統的製法により醸造された酒類の一種であり、酒税法上は「米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの」と定義される。
注 4 酵母遺伝子:酵母の様々な形質を生み出す元となる DNA 内のヌクレオチド配列を指す。日本酒用の酵母遺伝子の解析も進み、日本酒ならではの環境に応答してアルコール発酵能力や味わい・香りの原因成分を生み出す遺伝子が発見されている
【微生物インタラクション研究室】
研究室紹介ページ:https://bsw3.naist.jp/courses/courses313.html
研究室ホームページ:https://bsw3.naist.jp/microbial_interaction/
(2024年07月08日掲載)