NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の熊野 舞香さん(博士前期課程1年)が「日本醸造学会若手の会」においてベストポスター賞(醸造ベーシックサイエンス賞)を受賞しました。

バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の熊野 舞香さん(博士前期課程1年)が「日本醸造学会若手の会」においてベストポスター賞(醸造ベーシックサイエンス賞)を受賞しました。

受賞コメント

 この度、「第9回日本醸造学会 若手シンポジウム」において「ベストポスター賞(醸造ベーシックサイエンス賞)」を受賞することができ、非常に光栄に思います。この賞を頂けたのは、日頃から研究を支えてくださっている高木博史教授をはじめ、多くの方々のおかげです。心より感謝申し上げます。特に、常にオープンにディスカッションに応じて下さる渡辺大輔助教には深く感謝致します。また、共に研究に取り組んで頂いている菊正宗酒造株式会社様に深く御礼申し上げます。この経験を糧に、今後さらに研究を発展させていくよう精進したいと思います。

受賞内容

生酛乳酸菌の共存が誘導する清酒酵母の炭素代謝改変および清酒醸造への効果

 清酒醸造における伝統的手法である生酛造りは、酵母と乳酸菌が共存する過程を含みます。乳酸菌の共存意義としては、自らが生産する乳酸による他の微生物の混入防止効果や、清酒の風味への効果が報告されてきましたが、酵母への影響は未知でした。一方、近年の研究により、様々な細菌との共存により、酵母のグルコース抑制の解除を引き起こすタンパク質性因子[GAR+]の誘導を促進することが報告されました。本研究では、清酒醸造における [GAR+]誘導、またその影響に注目し、生酛醸造における酵母と乳酸菌の新たな共存の意義の解明を目指しました。

 まず、[GAR+]誘導について研究を行ったところ、清酒酵母・生酛由来酵母においても[GAR+]を誘導可能であり、その誘導率が実験室酵母と比べて有意に高いことが明らかになりました。また、低温における[GAR+]の表現型の強さも、実験室酵母に比べて、清酒酵母・ 生酛由来酵母において強いことが分かりました。さらに、生酛乳酸菌が清酒酵母の[GAR+]誘導を促進していることを実証しました。清酒酵母の中でも特に、生酛由来の酵母と乳酸菌を組み合わせたときに顕著な[GAR+]誘導を示しました。これらのことから、低温条件において、清酒酵母・生酛由来酵母は[GAR+]誘導の頻度も程度も実験室酵母に比べて高いことが明らかになり、[GAR+]誘導しやすい株が、清酒酵母・生酛由来酵母として単離されてきた可能性が示唆されました。

 次に、[GAR+]誘導による清酒醸造への影響を調べました。清酒酵母にあらかじめ[GAR+]を人為的に誘導させた株を用いて清酒を醸造したところ、元の株を用いた場合と比べて香味成分に差が生じることが示されました。また、実験室酵母・清酒酵母においては、[GAR+]誘導により発酵力が低下するが、生酛由来酵母では低下しにくい結果が得られました。

 以上の結果から、生酛造りにおける乳酸菌は、乳酸など酵母が生産しにくい特徴的な成分を付与することに加え、酵母の炭素代謝の変化を引き起こすことにより清酒の品質に寄与するという新たな可能性を見出しました。

【日本醸造学会若手の会】

http://jozowakate.mysterious.jp/wakate.htm

【ストレス微生物科学研究室】

研究室紹介ページ:http://bsw3.naist.jp/courses/courses305.html
研究室ホームページ:http://bsw3.naist.jp/takagi/

(2017年10月19日掲載)

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