研究成果の紹介
脳が感覚情報を知覚するときのマスタークロックの同期方法??
-生体脳での抑制性神経細胞の同期の仕組み-
脳が感覚情報を知覚するときのマスタークロックの同期方法??
-生体脳での抑制性神経細胞の同期の仕組み-
ロンドン大学のグループとバイオサイエンス研究科 神経機能科学研究室の駒井 章治准教授は、神経活動の同期が抑制性神経細胞のギャップジャンクションによ り制御されていることを生体脳を用い世界で初めて明らかにしました。 この研究結果は、米国時間の平成28 年3 月28 日(月)付で米国の専門誌” Neuron”に掲載されました 。
駒井 章治准教授 のコメント
私達の脳は非常に複雑であり、未だに脳の中の「単語」や「文章」は未知であると言っても過言ではありません。脳機能の最小単位とも言えるこの「単語」や「文章」はどのように表現されているのでしょうか。様々な情報処理の最小単位を理解するためにはトップダウン的な見方とボトムアップ的な見方の両方向から研究をすすめる必要があります。 今回の研究では神経細胞の同期現象、特に非常に短い時間幅での同期現象が生体脳においてどのように実現されているのかを検証しました。樹状突起の生理で著名なイギリスのグループとの共同研究により非常にチャレンジングな方法で本研究結果を得ることができました。何度もチャレンジしては失敗するという実験の連続でしたが、実際の生体脳の中でこれまで想定されていたことが起こっており、これがどのようなメカニズムで実装されているのかを明らかにすることは非常に刺激的で私個人としても大変勉強になるものでした 。
<解説>
私達の脳は様々な情報を処理し、私達の行動のほとんどの情報を処理しています。これら脳の情報は時に別々に、時には同期的に共同して神経細胞が働くことで情報が表現されていると考えられています。多くの細胞が同期的に働くことは様々な場面で見られる現象であり、抑制性の神経細胞の存在によりこれら同期的な神経活動を実現していると考えられ てきました。多くのGABA作動性神経細胞とよばれる抑制性神経細胞同士は多くギャップジャンクションを持ち、電気的に相互に連絡することで数ミリ秒の正確さで同期していると考えられています。
今回私たちは生体脳、特に小脳のゴルジ細胞という細胞同士が電気的に共役して誘導する数ミリ秒の正確な同期活動が自発神経活動内に見られ、これが感覚刺激を与えることによって増強されることを明らかにしました。
今回の研究では電気的カップリングが哺乳類の神経回路で見られる時間的処理に重要であるというアイデアが生体脳においても適用されることを世界ではじめて示しました。
<実験方法>
オス、メス両方(20-45日齢)のGlyT2プロモータにドライブされるEGFPマウスおよびconnexin36ノックアウトマウスを用いてGolgi細胞の同定とターゲットを行いました。Alexa 594という染色液を含むパッチ電極を用いてEGFPを発現するGolgi細胞を2光子レーザー走査顕微鏡による目視下で単一細胞もしくは二細胞同時にパッチクランプし、隣接するGolgi細胞の電気的特性を計測しました(図1)。
図1:生体脳における2細胞同時計測。右はそれぞれの細胞が同期している様子を示す。下図はconnexin36欠損動物におけるそれぞれの細胞の神経活動。
感覚刺激としては頬の感覚洞毛(facial whisker)に対してエアパフ(100 ms, 30-40 psi)を行うことで提示しました(図2)。
図2:感覚刺激による同期応答。エアパフ刺激の際に同期活動が多く見られる。
モデルによるシミュレーションはNEURON 7.1シミュレーターを用いて行いました。
(詳細は原著を参照してください)
(2016年09月08日掲載)