NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の舟橋依里さん(博士前期課程2年)が「第32回Yeast WORKSHOP」において「ベストポスター賞」を受賞

 バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の舟橋依里さん(博士前期課程2年)が「第32回Yeast WORKSHOP」において「ベストポスター賞」を受賞しました。

受賞のコメント

 「第32回Yeast WORKSHOP」において「ベストポスター賞」を受賞することができ大変嬉しく思います。この賞を頂けたのは、日頃から研究を支えていただいている大津厳生助教、高木博史教授をはじめ、OBを含めた研究室のメンバーであるポスドクの河野祐介さん、森ヶ崎進さん、技術補助員の吉野みほ子さん、ナッタさん(現: BIOTEC)、仲谷豪さん(現:長瀬産業)、佐々木翠さん(現:日本食研)、鈴木茉里奈さん(現:資生堂)、玉越愛さん(現:日本アルシー)、佐伯恭平さん、高橋砂予さん、城山真恵加さん、加知卓磨さん、鶴岡愛さん、皆様のお力があってこそと、心より感謝申し上げます。また、研究室のメンバーや、共同研究において共に研究に携わっている方々にも深く感謝しています。この受賞を励みに、今後さらに研究を発展させて、社会に貢献できるよう努めたいと思います。

 「ベストポスター賞」は、第32回と歴史有る酵母研究者の集い『YEAST WORKSHOP』にて口頭発表及びポスター発表を行った大学院生(65名程度)の中から2名の優ぐれた発表を行った大学院生に授与する賞です。 

受賞した発表の内容 

『出芽酵母における新規チオ硫酸代謝経路の発見』

 我々は大腸菌において環境中に硫酸塩とチオ硫酸塩が同時に存在する場合、チオ硫酸塩を優先的に利用することを見出している。硫酸塩からのシステイン合成は、2分子のATPと4分子のNADPHの消費を伴う一方で、チオ硫酸塩からは1分子のNADPHを消費するのみであり、大腸菌がシステイン合成のためにチオ硫酸塩を優先することは合理的であると考えられる。そこで、本研究では出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeのチオ硫酸塩の資化能および新規チオ硫酸代謝経路とその効果について調べることを目的とした。
 これまで、チオ硫酸塩を単一硫黄源としてS. cerevisiaeが生育できるかどうかについては報告されていない。そこで、チオ硫酸塩を単一硫黄源とした最少(SD)培地における野生株の生育について調べた。その結果、硫酸塩を単一硫黄源としたSD培地と比べて、わずかに良好な生育を示すことが判明した。また、硫酸塩とチオ硫酸塩をそれぞれ単一硫黄源としたSD培地で野生株を生育させた後、チオール試薬(Monobromobimane)を含むメタノールで細胞内代謝物を抽出し、LC-MS/MSに供することで、硫黄化合物のメタボローム解析を行った。その結果、硫酸塩に比べてチオ硫酸塩の方が、亜硫酸塩、硫化物塩、ホモシステインが短時間で生成されていたことから、S. cerevisiaeは大腸菌と同様にチオ硫酸塩を単一硫黄源としてホモシステインを生合成することが明らかとなった。また、培地中のエタノール濃度をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、硫酸塩に比べてチオ硫酸塩の方が、短時間でエタノールが高生産されていることを見出した。以上の結果から、S. cerevisiaeでは細胞の生育とエタノール生産性において、硫酸塩よりチオ硫酸塩が有効であることが明らかとなった。また、硫酸同化で消費するエネルギーや還元力に比べて、チオ硫酸塩はエネルギー効率的に有利であるため、短時間でエタノールが高生産されたと考えられる(本研究は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業の支援を受けて実施した)。 

関連する資料 

  1. Y. Kawano*, I. Ohtsu*, K. Takumi, A. Tamakoshi, G. Nonaka, E. Funahashi, M. Ihara, and H. Takagi: Enhancement of L-cysteine production by disruption of yciW in Escherichia coli. *These authors contributed equally to this work. J. Biosci. Bioeng., doi: 10.1016/j.jbiosc.2014.07.006 (in press).
  2. 大津厳生, 河野祐介, 高橋砂予, 城山真恵加, 舟橋依里, 高木博史:進化の果てに消滅した硫黄同化 - 大腸菌における硫黄の選択的利用機構, 実験医学 増刊 「驚愕の代謝システム」, 32(15), 108-114 (2014).
  3. 舟橋依里、大津厳生、河野祐介、城山真恵加、加知卓磨、鶴岡愛、高木博史:酵母の培養方法, 特願2014-158276
  4. 大津厳生、河野祐介、高橋砂予、舟橋依里、城山真恵加:L-システイン生産能が高められた腸内細菌科に属する細菌, 特願2013-183237

(2014年11月20日掲載)

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