NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の大津厳生助教が京都SMI中辻賞を受賞

 ストレス微生物科学研究室の大津厳生助教が特定非営利活動法人京都SMIより、「中辻賞」を受賞致しました。「京都SMI中辻賞」は、京都大学物質―細胞統合システム拠点(WPI-iCeMS)の設立拠点長である中辻憲夫氏が、研究成果の社会還元の重要性を強く意識し、特定非営利活動法人京都SMIに寄付をされ、産学連携を視野に入れた研究を奨励しています。物質および細胞科学分野において優れた業績を挙げた研究者に授与する賞です。

京都大学物質―細胞統合システム拠点(WPI-iCeMS)のホームページ
http://kyoto-smi.or.jp/

受賞コメント

 この度、京都SMIより「中辻賞」に採択していただき、大変感謝いたします。本学に着任してから取り組んできた「システインの生理的役割の解明と発酵生産への応用」に関する研究が評価されて、今回、「中辻賞」を受賞できたことに嬉しく思います。本賞にご推薦くださった本学理事・副学長 片岡幹雄教授、バイオサイエンス研究科長 箱嶋敏雄教授および高木博史教授に深く感謝致します。また、これまで苦楽を共に研究を進めて下さった、ポスドクの森ヶ崎進博士、河野祐介博士、技術補助員の井田慶子さん、大学院生のナッタ君(現: BIOTEC)、仲谷豪君(現:長瀬産業)、佐々木翠さん(現:日本食研)、鈴木茉里奈さん(現:資生堂)、玉越愛さん、高橋砂予さん、城山真恵加さん、舟橋依里さん、ありがとうございます。今後さらに、本領域を切り拓いていく精神で研究を進めていきたいと考えておりますのでよろしくお願い致します。

研究テーマ

『硫黄循環能を高めた微生物による有用物質生産への応用』

 私達は、生物地球化学サイクルのうちで、生命活動にも必須な『硫黄』の循環に着目しています。微生物、高等植物は土壌中の無機硫黄(主に硫酸塩)を取り込み有機性硫黄化合物に固定する硫黄同化系が存在する一方、ヒトを含めた哺乳類には、この硫黄同化経路は存在しません。そのため哺乳類は生命活動の維持に必要な硫黄源を微生物・植物に依存しており、微生物・植物による有機性硫黄への固定と哺乳類による無機性硫黄への異化という一方向に循環すると考えられます。
 これまで炭素源・窒素源における選択的な利用機構が微生物には存在する一方、硫黄源に関する選択的な利用機構は知られていません。私達は、ΔcysM(チオ硫酸経路が欠損)菌株が硫酸塩を含む最少培地で良好に生育するのに対し、チオ硫酸塩を添加した条件では感受性を示すことを見出しました。以上のことから、チオ硫酸塩が硫酸塩の利用を抑制することで、チオ硫酸経路優先的にシステインを合成する硫黄源の選択的利用機構「サルファーリプレッション」を世界で初めて見出しています。このことは、微生物の生育に必須な硫黄源の選択性を利用し、もっとも利用効率のよい硫黄源を選択することで発酵生産性および生産コストの削減が期待できます。現在、システイン発酵生産で用いられている硫黄源はチオ硫酸塩であり、140円/kgと高価です。そこで、サルファーリプレッションを解除した大腸菌を育種し、安価な硫酸塩(20円/kg)への代替えが可能となり特許を出願しています。システインの発酵生産のみならず、グルタチオンや、メチオニンの発酵生産にかかるコストの削減も期待できます。硫黄源の見直し・改善は、全ての微生物を用いた物質生産にも応用可能です。本研究の成果は、日本がリードしてきた微生物による発酵生産技術の国際競争力強化にも直結すると思います。

関連する論文

  1. Takeshi Nakatani, Iwao Ohtsu, Gen Nonaka, Natthawut Wiriyathanawudhiwong, Susumu Morigasaki, Hiroshi Takagi: Enhancement of thioredoxin/glutaredoxin-mediated L-cysteine synthesis from S-sulfocysteine increases L-cysteine production in Escherichia coli. Microb. Cell Fact., 11, (2012).
  2. Iwao Ohtsu¶*, Natthawut Wiriyathanawudhiwong*, Susumu Morigasaki, Takeshi Nakatani, Hiroshi Kadokura, and Hiroshi Takagi: The L-cysteine/L-cystine shuttle system provides reducing equivalents to the periplasm in Escherichia coli. *These authors contributed equally to this work. J. Biol. Chem., 285, 17479-17487 (2010). 
  3. Natthawut Wiriyathanawudhiwong*, Iwao Ohtsu*, Zhao-Di Li, Hirotada Mori, and Hiroshi Takagi: The outer membrane TolC is involved in cysteine tolerance and overproduction in Escherichia coli. *These authors contributed equally to this work. Appl. Microbiol. Biotech., 81, 903-913 (2009).

    (2014年02月07日掲載)

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