NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

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コケ植物の有性生殖器官発生を転写因子の機能分化から考える

演題 コケ植物の有性生殖器官発生を転写因子の機能分化から考える
講演者 古谷 朋之 博士(大阪大学大学院 理学研究科 生物科学専攻)
使用言語 日本語
日時 2024年9月11日(水曜日) 15:00~16:00
場所 L12
内容

有性生殖は幅広い生物種に見られる生殖様式であり、その過程で遺伝子セットの組換えが生じることで集団の遺伝的多様性の獲得を推進する。陸上植物の有性生殖において、配偶子として卵と精子(精細胞)をつくる過程が必須である。被子植物では胞子体世代(2n)でつくられる「花」のなかで、配偶体世代(n)の組織として数細胞からなる胚のうや花粉がつくられ、それぞれに卵や精細胞が分化する。一方、陸上植物の進化のなかで比較的早い時期に出現したコケ植物や小葉植物、シダ植物では半数体(配偶体)世代において、有性生殖器官として造卵器を形成し雌性配偶子の卵を、造精器の中で雄性配偶子である精子を分化させる。近年、モデルコケ植物ゼニゴケにおいて生殖成長過程の分子遺伝学研究が著しく進んでいるが、造卵器や造精器の発生制御メカニズムは未解明の部分も多く残されている。私たちは、情報生物学的解析に基づき、ゼニゴケ有性生殖器官の発生を制御する新規候補因子としてBZR/BES転写因子MpBZR3に着目した。興味深いことに、MpBZR3を人為的に過剰発現すると、雌株背景では造卵器様構造体、雄株背景では造精器様構造体が、異所的に誘導された。また、Mpbzr3機能欠損変異体では造卵器の卵細胞が崩壊し、造精器では発生初期段階での発生異常が観察された。これらの結果は、MpBZR3が造卵器や造精器の発生において重要な役割を持つことを示している (Furuya et al. 2024)。さらに、ゼニゴケのMpBZR3はこれまで被子植物において解析が進められてきた典型的なBZR/BES転写因子と異なる系統群に位置する“非典型”のtype-B サブグループに属することを見出した (Furuya et al. 2024)。Type-BBZR/BES転写因子の系統はコケ植物、小葉植物、シダ植物では高度に保存されているものの、被子植物や裸子植物では保存性が低下しており、多細胞性の造卵器、造精器をつくる植物に重要であることが推測される。最近、type-B BZR転写因子の分子機能の種間比較解析や他のコケ植物での機能解析も進めており、これらの知見もふまえ、有性生殖システムを中心に植物進化過程におけるBZR/BES転写因子の役割の変遷について議論したい。

問合せ先 植物発生シグナル研究室
久永 哲也 (hisanaga.tetsuya@naist.ac.jp)

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