近年、甘酒などを中心とした発酵食品が「健康によい」として、改めて大きな関心を集めている。特に清酒、米酢、味噌等の伝統的発酵食品が、日本人の健康長寿に貢献してきたことは周知の事実である。一方で、それらの機能性については依然として未解明な点も多い。演者らは①酢酸菌(食酢醸造微生物)の代謝改変による食酢の高機能化、並びに②麹菌(清酒醸造などに使用)を製造に用いる発酵食品の新規機能性探索を主テーマとして研究を行ってきた。本セミナーでは当該研究成果、及び今後の展望について概説させて頂く。 ① 食酢高機能化を目指し、生活習慣病改善効果を有する分岐鎖アミノ酸(BCAA)に着目した。食酢醸造酢酸菌Komagataeibacter europaeusへの変異導入育種により、首尾よくBCAAを高生産する変異株を作出できた。遺伝子破壊実験等を通じ、その機序解明を進める中で、包括的転写因子Leucine-responsive regulatory protein (Lrp)の機能欠損が、酢酸菌へBCAA生産能を付与する決定因子である事が示された(1)。更に、酢酸菌Lrpは、自身が産生する酢酸により引き起こされる「細胞内pHの低下」をも巧みに利用し、標的遺伝子発現を制御することが示された(2)。高濃度酢酸存在下という「極限環境」をニッチとする酢酸菌の、特異な生存戦略の一端を解明できた。 ② アグマチンは認知機能改善や抗肥満作用など、QOL向上作用を有する機能性ポリアミンの一種である。演者らは日本酒や日本酒を原料とした米酢にのみ高濃度のアグマチンが含まれる事に着目し、一連の培養実験を通じて、麹菌Aspergillus oryzaeが固体培養特異的に著量のアグマチンを生産することを初めて明らかにした(3)。加えて、A.oryzaeも属する子嚢菌類が保持しないとされていた、アルギニンの脱炭酸を介したアグマチン生成反応を触媒する、新規アルギニン脱炭酸酵素の同定にも成功した(4)。 【参考論文】 (1) Akasaka et al. J Biosci Bioeng 118:607 (2014) (2) Ishii et al. J Bacteriol 203:e0016221 (2021) (3) Akasaka et al. Appl Environ Microbiol 84:e00722-18 (2018) (4) Murakami et al. Appl Environ Microbiol 90:e0029424 (2024 |