NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

セミナー情報

キイロショウジョウバエを用いた未病・老化研究

演題 キイロショウジョウバエを用いた未病・老化研究
講演者 赤木 一考 博士(富山大学 和漢医薬学総合研究所 未病分野)
使用言語 日本語
日時 2024年6月27日(木曜日) 15:30~16:30
場所 中セミナー室(D105)
内容

 老化は生体反応の中で最も時間のかかるプロセスである。この過程において、身体は生理的な統合性を徐々に失い、脆弱性が上昇する。また、身体的に健康な若い世代では、生体の恒常性が維持され生理的に安定であるが、加齢に伴う様々な外乱により恒常性が破綻し不安定化する。我々は、生体情報の不安定性、すなわち「ゆらぎ」に着目し研究を行っている。
 メタボリックシンドロームは内臓脂肪が蓄積した肥満に軽度な脂質代謝や血圧上昇の異常が集積した状態であり、未症状でも放置すると糖尿病や動脈硬化が進展して心疾患の発症リスクを増大することが知られている。すなわち、メタボリックシンドロームは生活習慣病や虚血性心疾患の前段階であり、未病状態と考えることができる。メタボリックシンドロームの診断基準のうちウェスト周囲長の基準を満たす場合は、今後、血糖・脂質代謝・血圧異常を伴う可能性が高いものの、臨床的には異常と診断されない。一方、この状態では、既に細胞や組織レベルにおいて疾病の発症へ向かう何らかの変化が起きている可能性が考えられる。そのため、疾病発症の前段階(未病)を超早期に検出する手法の開発が望まれている。そこで我々は、未病の検出において標的となり得る遺伝子、すなわち未病遺伝子を同定するため、動的ネットワークバイオマーカー(DNB)理論を用いた数理解析による「ゆらぎ」の検出とモデル生物による分子生物学を融合し研究に取り組んでいる。
 まず我々は、自然発症メタボリックシンドロームマウスであるTSODマウスを用いて、疾患発症前の白色脂肪組織における網羅的な遺伝子発現をマイクロアレイ法により時系列的に取得し、DNB解析を行った。その結果、ある一時点において同期したゆらぎが最大化することを見出し、その時点を本モデルマウスの未病と定義した。さらに、15個の未病遺伝子候補(DNB遺伝子)を同定した。これらの遺伝子が代謝制御に関わるかどうかを明らかにするため、つぎに我々は、それらのショウジョウバエ相同遺伝子をハエの脂肪組織でノックダウンし、飢餓耐性を指標としたスクリーニングを行った。本セミナーでは、我々の未病遺伝子同定への試みと未病・老化のメカニズム解明に向けた取り組みについて紹介したい。

問合せ先 遺伝子発現制御
別所 康全 (ybessho@bs.naist.jp)

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