内容 |
伝統的発酵過程の多くは複雑系であり、代謝調節、シグナル伝達、微生物相互作用などの未解明の生命現象から成る。本セミナーでは、主に下記の3つのトピックスを通して、酵母をはじめとする微生物が発酵環境においてどのように振舞い相互作用し合うのかに関する最新の知見を提供する。
[1]アルコール発酵力の調節1,2):高発酵力を有する清酒酵母の研究により、真核生物に保存されたTORC1シグナル伝達経路が細胞外の栄養状態をモニターし、エネルギー需給に応じて炭素代謝を調節することを解明した。酵母の発酵力を自在にデザインするための新規育種技術の確立に至った。
[2]乳酸菌を感知する酵母プリオン3,4):様々な発酵食品の製造において、乳酸菌と酵母の共生過程が存在する。両者を共培養すると、酵母の炭素代謝プロファイルが変化し、発酵環境での生存率が上昇した。本相互作用に、実体不明の酵母プリオン様因子[GAR+]が関与することを明らかにした。
[3]納豆菌と大豆の生存競争5):納豆菌は発芽能を失った大豆上において旺盛に生育することを見出した。生大豆は発芽時に抗菌物質を分泌して納豆菌の生育を抑制し、納豆菌は枯死大豆において植物細胞壁分解産物を選択的に認識し細胞内に取り込むABCトランスポーターの発現を誘導した。
【参考論文】(1)D.Watanabeetal.,Appl.Environ.Microbiol.82,340-351(2016)
(2)D.Watanabeetal.,Appl.Environ.Microbiol.85,e02083-18(2019)
(3)D.Watanabeetal.,J.Biosci.Bioeng.126,624-629(2018)
(4)D.WatanabeandH.Takagi,FEMSYeastRes.19,foz061(2019)
(5)H.Sugiura,D.Watanabeetal.,Sci.Rep.10,18691(2020)
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