NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

セミナー情報

神経細胞の移動を担う力学機構と分子メカニクスの解析

演題 神経細胞の移動を担う力学機構と分子メカニクスの解析
講演者 嶺岸卓徳 博士
(奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 博士研究員)
使用言語 日本語
日時 2020年2月4日(火曜日) 16:00~16:45
場所 大セミナー室(C109)
内容

 脳が正しく形成されるには、神経細胞が脳内の適切な位置に向かって細胞移動する必要がある。神経細胞は先導突起の伸長と細胞体の移動を繰り返すことで移動することが知られている。先導突起はその先端部に形成される成長円錐が前進することで伸長するが、どのような力が成長円錐を前進させるのかが不明であり、先導突起の伸長を担う分子メカニクスは明らかにされていなかった。また、神経細胞は先導突起を伸長させた後、細胞体を移動させることで前進する。しかし、細胞体を前進させる力の正体も不明であった。さらに、神経細胞は先導突起の伸長と細胞体の移動を交互に行うことで細胞移動するが、2つの移動ステップを同調させる機構もわかっていない。

 我々は、先導突起の伸長と細胞体の移動を担う力の正体を解明するために牽引力顕微鏡法による力学解析を行った。その結果、成長円錐で生み出される牽引力が先導突起を伸長させることが明らかとなった。さらに、先導突起による細胞体を牽引する力が細胞体を移動させることがわかった。次に、我々は成長円錐が牽引力を生み出す分子機構の解明を目指した。生化学的相互作用解析や一分子計測法等の実験により、Shootin1bが成長円錐内でCortactin及びL1‐CAMと相互作用することがわかった。さらに、これらの分子との相互作用を介してShootin1bが逆行性移動するアクチン線維と接着性基質を連結することで牽引力が生み出されることがわかった。続いて我々は、先導突起の伸長と細胞体の移動を同調させる機構の解明を目指した。細胞移動する神経細胞では、細胞内カルシウム濃度の一過的な急上昇(Ca2+ transient) が起こることが知られている。そして、Ca2+transientは細胞体の移動を誘導するシグナル伝達に関与すると考えられている。我々はカルシウムイメージングにより、先導突起の長さとCa2+transientの発生頻度が相関することを見出した。また、我々がShootin1KO神経細胞の移動とCa2+ transientを解析したところ、Shootin1 KO細胞では先導突起の伸長が阻害され、Ca2+ transientの発生頻度と細胞体の移動速度が減少することがわかった。さらに機械受容チャネル阻害剤GsMTx4が添加された神経細胞では、Shootin1 KO神経細胞と同様に、Ca2+ transientの発生頻度の減少と細胞体の移動速度の減少を示すことがわかった。これらの結果は、Shootin1bを介した先導突起の伸長による細胞膜の張力増加が、機械受容チャネルの活性化とそれに伴うCa2+transientを引き起こし、細胞体の移動を誘導する可能性を示唆している。現在、我々はこの一連の力学・分子機構を通して先導突起の伸長と細胞体の移動が同調するというモデルを立ててその検証を試みている。

 また最近になり、先導突起の伸長に必要な牽引力の発生機構と同様な仕組みが記憶形成に重要なシナプスの可塑的変化にも働くことがわかってきた。本セミナーでは、我々がこれまでに行った神経細胞の移動に関する研究の成果について主に解説するとともに、シナプスの可塑的変化に関する最近の研究成果についても紹介したい。

問合せ先 植物細胞機能研究室
橋本 隆 (hasimoto@bs.naist.jp)

セミナー情報一覧へ