NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

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リポソームの暗視野顕微鏡観察による脂質膜変形因子の探索
―PLCb1のC末端は脂質膜をチューブ状に変形する―

演題 リポソームの暗視野顕微鏡観察による脂質膜変形因子の探索
―PLCb1のC末端は脂質膜をチューブ状に変形する―
講演者 稲葉 岳彦 博士(理化学研究所 佐甲細胞情報研究室 研究員 )
使用言語 日本語
日時 2018年12月4日(火曜日) 10:00~10:45
場所 大セミナー室(C109)
内容

細胞膜や細胞内の膜器官を構成する生体膜は様々な「かたち」をとる。この「かたち」
はそれぞれの生体膜の機能と密接な繋がりがある。脂質膜の形態形成メカニズムを
調べるために、膜変形を行う新しい因子の発見・同定を目的として、リポソーム(人工
脂質膜小胞)と暗視野顕微鏡を用いた観察系を利用した。暗視野顕微鏡を用いると蛍
光色素などの染色なしに脂質膜の変形を可視化することができる。
探索の結果、マウス脳抽出液に脂質膜をチューブ状に変形させる因子が存在すること
を発見した。この因子を同定したところ、PIP2に特異的な脂質分解酵素PLCb1だった。
次に、PLCb1を発現精製して使用したところ、単独でもリポソームを変形した。そこで、
様々な変異体断片を作成し、脂質膜変形に必要なドメインを決定した。その結果、
PLCbファミリーに特徴的な構造のC末端側ドメインだけで変形に充分なことがわかった。
つまり、脂質分解酵素活性を担うN末端側のドメインは変形に不要なことを意味する。
この変形活性が細胞内でも観察されるかを確認するために、蛍光タンパク質を融合し
たPLCb1を発現したところ、全長およびC末端側のドメインは、どちらも細胞膜へと局在
し、細胞膜から多数のチューブ状の構造が形成された。この細胞膜の変形は、脂質分
解活性のない変異体でも観察されたため、やはり酵素活性はチューブ形成に不要なこ
とが示された。この発見を元に、PLCb1をノックダウンして発現量を低下させた細胞を調
べたところ、細胞膜のカベオラの数が減少した。これらのことは、PLCb1が脂質分解に
よる情報伝達と膜変形による細胞膜の形態形成の機能を持つハイブリッド型の酵素で
あること示唆している。本セミナーでは、このPLCb1による膜変形を中心に、脂質膜モ
デルを用いた解析について紹介する。

【参考論文】
1. Inaba et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 113(28):7834-7839. (2018)
Phospholipase Cβ1 induces membrane tubulation and is involved in caveolae formation.

問合せ先 植物細胞機能
橋本 隆 (hasimoto@bs.naist.jp)

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