NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

セミナー情報

植物実験データの解析と数理モデリング

演題 植物実験データの解析と数理モデリング
講演者 津川 暁博士(理化学研究所)
使用言語 日本語
日時 2018年7月18日(水曜日) 16:00~17:00
場所 大セミナー室
内容

植物器官は個体の違いに依らず正確なサイズや形を獲得する再現性を持つことが知られているが,ミクロな細胞を観察するとサイズや形がバラバラで多様性を持つことがわかっている.ミクロな細胞の多様性とマクロな器官の再現性が矛盾なく説明されるような原理は何であろうか?我々は相反する性質を持つミクロとマクロをつなぐ物理的な仕組みが存在すると期待して,植物萼片(がくへん)の成長過程を理論・データの両輪で分析し,植物器官の成長原理を解明することを目指している.
本発表の前半では,実験家と共同で進めているデータ解析手法を紹介し,手法の効力や限界について議論する.主にシロイヌナズナの萼片の細胞成長や微小管配向のデータ解析を中心に示し,対応する数理モデルなどを紹介する.時間があれば最近進めている木部道管のデータ解析や根のオーキシン輸送数理モデルについても紹介する.後半では,実験―理論対応がうまく成功した例として,器官形状がバラバラになる変異体と正確なサイズに至る野生型の細胞成長のデータ比較結果と数理モデルについて紹介する.比較の結果,驚くべきことに野生型の方が細胞成長の時空間的な多様性(揺らぎ)が高いことが明らかになってきた.すなわち,ミクロな細胞の確率性がマクロな器官形状の安定性につながることを意味している.この性質の一端を表現するモデルとして,器官を“水風船”に見立てた連続体変形モデルを構築し,成長の時間揺らぎが高い場合にマクロな器官が再現的に形成されることを明らかにした.

参考文献:
[1] L. Hong, M. Dumond, S. Tsugawa et al., Dev. Cell, 38(1), p. 15-32, 2016.
[2] 植物の形作りの仕組みに迫るデータ科学, 生物物理, 57(3), p. 131-134, 2017.
[3] L. Hong, M. Dumond, M. Zhu, S. Tsugawa, C.-B. Li, A. Boudaoud, O. Hamant, and A. H. K. Roeder, Heterogeneity and Robustness in Plant Morphogenesis: From Cells to Organs, Annu. Rev. Plant Biol., 69, p. 469-495, 2018.

問合せ先 植物発生シグナル
宮島 俊介 (s-miyash@bs.naist.jp)

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