セミナー情報
ケミカルバイオロジー/ケミカルジェネティクスを用いた植物の幹細胞化過程の解析
演題 | ケミカルバイオロジー/ケミカルジェネティクスを用いた植物の幹細胞化過程の解析 |
講演者 | 久保 稔 博士(Plant Biotechnology, Univ. Freiburg 訪問研究員/基礎生物学研究所 特別協力研究員) |
使用言語 | 日本語 |
日時 | 2012年4月10日(火曜日) 16:00~ |
場所 | 大セミナー室 |
内容 | 植物細胞は分化した細胞からでも容易に幹細胞を形成し、個体再生できる能力を持つ。これまでに、幹細胞形成に働くと考えられる因子がいくつも同定されてきたにもかかわらず、未だその仕組みの多くの部分は明らかになっていない。私たちは、切断した葉細胞から、光と水だけで幹細胞を形成するヒメツリガネゴケを材料に、この分子機構の解明を進めている。その中で、新奇の幹細胞化関連因子を同定するために、ケミカルバイオロジー/ケミカルジェネティクスを用いた解析を行った。まず始めに、ヒメツリガネゴケの幹細胞化を阻害する低分子化合物(RIN)のスクリーニングを行い、低濃度(IC50=0.5µM)で強い活性を有するRIN16Bをを同定した。次に、RIN16Bが作用する分子機構に関わる因子を同定するために、シロイヌナズナでもRIN16Bが新規の幹細胞形成を阻害することを確認し、完全長cDNA過剰発現株であるシロイヌナズナFOXラインライブラリーから、RIN16B耐性株のスクリーニングを行った。得られたRIN16B耐性株の原因遺伝子AtRIR1は、植物に限らず多くの真核生物で保存されているPHD-fingerタンパクをコードしており、ヒメツリガネゴケにおいては類似遺伝子が2つあることが分かった(PpRIR1、PpRIR2)。興味深いことに、このPpRIR2遺伝子を過剰発現すると、シロイヌナズナ同様にRIN16Bに耐性を示し、また、pprir1pprir2二重遺伝子欠損株を作成すると、ヒメツリガネゴケの幹細胞化が抑制された。これらの結果より、RIN16Bはヒメツリガネゴケとシロイヌナズナで共通に存在する幹細胞化のある過程を阻害し、その作用点を含む下流でRIR遺伝子が関与することが分かった。本セミナーでは、私たちの研究を通して見えてきた植物における幹細胞形成過程の普遍性と種特異性について紹介し、ケミカルバイオロジー/ケミカルジェネティクスを用いた研究の課題と今後の可能性についてお話ししたい。 |
問合せ先 | 植物グローバル 倉田 哲也 (tekurata@bs.naist.jp) |