セミナー情報
イネの葉におけるクロロフィル蛍光消光の制御機構
演題 | イネの葉におけるクロロフィル蛍光消光の制御機構 |
講演者 | 笠島 一郎 博士(埼玉大学環境科学研究センター) |
使用言語 | 日本語 |
日時 | 2011年8月31日(水曜日) 17:00~18:00 |
場所 | 大セミナー室 |
内容 | 太陽光が最も強い時には植物の葉は光合成光子流量密度(photosynthetic photon flux density, PPFD)が2,000 μmol m-2 s-1、つまり一秒あたり一平方メートルに2ミリモルという数の光子が供給される環境に曝される。このうち80%以上に相当する数のクロロフィル分子が継続的に励起されるのである。光合成速度の上限は太陽光の光子流量密度よりも小さく、強い光の下では植物はクロロフィル励起エネルギーのほんの一部しか光合成で消費することが出来ない。それでは、光合成で消費し切れなかったクロロフィル励起エネルギーは一体どうなってしまうのであろうか? 様々なイネ品種を比較してみると、アジアで広く栽培されているインディカ品種群よりも日本やその他アジアの一部で栽培されているジャポニカ品種群の方が非光化学消光能力(non-photochemical quenching, NPQ)が高かった。インディカ品種とジャポニカ品種で量的遺伝子座を解析したところ、イネの第一染色体長腕にインディカとジャポニカの非光化学消光能力を決める遺伝領域を同定した。この遺伝領域に存在するイネのPsbS遺伝子の発現量はインディカ品種よりもジャポニカ品種で多く、この違いによりジャポニカ品種の方が非光化学消光の能力が高くなっていると考えている(10)。イネにおいてもPsbS遺伝子を過剰発現すると非光化学消光能力が高くなるし、ジャポニカ品種のPsbS遺伝子をインディカ品種に導入すればインディカ品種の非光化学消光能力を高めることが出来るであろう。非光化学消光のイネの生育への効果を調査すると共にイネの非光化学消光を遺伝学的に改変することにより、イネのバイオマス育種が可能かもしれない。 Kasajima et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 13835-13840 (2011). |
問合せ先 | 分化・形態形成学 横田 明穂 (yokota@bs.naist.jp) |