NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

細胞機能学講座の大津厳生助教が財団法人 発酵研究所の「一般研究助成」対象者に選ばれました

細胞機能学講座の大津厳生助教が財団法人 発酵研究所の「一般研究助成」対象者に選ばれました。本研究助成は、微生物の分類および分類に視点を置いた生態・進化に関する研究を中心に、健康または環境に関与する微生物の研究や、発酵・応用微生物に関する研究に対し、研究費助成を行うことにより、微生物学の進歩発展に寄与することを目的とするものです。

財団法人 発酵研究所のホームページ

助成受託のコメント

大津厳生助教この度、財団法人発酵研究所より一般研究助成に採択していただき、大変感謝いたします。この助成金を有効に活用し、さらなる研究の発展を目指したいと思います。

助成受託研究テーマ

『脂質のクオリティーコントロールに働くシステイン/シスチン シャトルシステム』

大腸菌の細胞内にシステイン(Cys)はほとんど検出されないが、内膜には細胞質からペリプラズムにCysを輸送するCysトランスポーターが複数存在している。最近我々は外膜のCysトランスポーターとしてTolCタンパク質を同定しており1、ペリプラズムに排出されたCysの生理的役割に興味が持たれていた。そこでCysトランスポーターの一つYdeDを欠損させた大腸菌では過酸化水素(H2O2)に感受性を示すと同時に、YdeDを過剰発現させるとH2O2に耐性を示すことを見出した。また、CysはペリプラズムでH2O2を水に還元し、自身はシスチンに酸化された後、別の細胞膜タンパク質FliYによって細胞質に再び取り込まれること、およびFliYを欠損した大腸菌もH2O2に感受性を示すことがわかった(図1)。以上の結果は、CysとシスチンがYdeDとFliYの働きによって細胞質とペリプラズムの間を循環しながらH2O2を消去することを示しており、ユニークな酸化ストレス防御メカニズムとして「Cys/シスチンのシャトルシステム」を提唱した2

ここで新たな疑問が生じる。なぜペリプラズムで生じた過酸化水素を消去しなければいけないか?我々は大腸菌の細胞分裂についても興味深い現象を見出しており、その疑問を解決できると考えている。細胞質でH2O2を消去できない変異株(カタラーゼ、ペルオキシダーゼの機能欠損株)は、低濃度(25-100 μM)のH2O2に感受性を示し、細胞は分裂が完了せず、伸長したままの状態で死滅することがわかった。しかしながら、この変異株にCysトランスポーターYdeDを過剰発現させると細胞形態の異常は見られず、正常に生育できるようになった。大腸菌のペリプラズムでH2O2が生じると、どうして細胞分裂障害を引き起こすのかそのメカニズムの解明を目指しています。

【図.1】システイン/シスチンのシャトルシステムによるユニークな酸化ストレス防御機構
図1.システイン/シスチンのシャトルシステムによるユニークな酸化ストレス防御機構

関連する論文
  1. Natthawut Wiriyathanawudhiwong*, Iwao Ohtsu*, Zhao-Di Li, Hirotada Mori, and Hiroshi Takagi: The outer membrane TolC is involved in cysteine tolerance and overproduction in Escherichia coli. Appl. Microbiol. Biotech., 81, 903-913 (2009).
  2. Iwao Ohtsu*, Natthawut Wiriyathanawudhiwong, Susumu Morigasaki, Takeshi Nakatani, Hiroshi Kadokura, and Hiroshi Takagi: The L-cysteine/L-cystine shuttle system provides reducing equivalents to the periplasm in Escherichia coli. J. Biol. Chem., 285, 17479-17487 (2010).

(2011年02月21日掲載)

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