NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

「ならまち」エリアから新しい天然酵母の選抜に成功
ビール醸造に適した「蔵つき酵母」を使ったクラフトビールが誕生!
~古都の歴史をイメージする独自の味わいと飲みやすさを実現~

「ならまち」エリアから新しい天然酵母の選抜に成功
ビール醸造に適した「蔵つき酵母」を使ったクラフトビールが誕生!!
~古都の歴史をイメージする独自の味わいと飲みやすさを実現~

【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑 一裕)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域ストレス微生物科学研究室の髙木 博史教授と西村 明助教は、奈良市のゴールデンラビットビール社(代表:市橋 健)との共同研究により、古都の歴史を伝える「ならまち」エリアからビール醸造に適した「蔵つき酵母」の選抜に成功しました。また、この新しい天然酵母を用いてクラフトビールを醸造することで、酵母独自の穏やかな味わいとふくよかで軽い口当たりのホワイトエールビールの商品化が実現しました(7 月 7 日より販売開始)。

コメント

今回、西村助教を中心とするスタッフの頑張りによって、幸運にもビール醸造に適した性質(マルトース資化性、凝集性など)を有する酵母が分離できました。昨年の「かぐやま」に続く「うねびやま」をぜひ味わってみてください。現在、ゴールデンラビットビール社とはコラボレーションの第三弾も進めており、バラの香気成分(フェネチルアルコール)の生成量が著しく増加した酵母の育種に成功しています。秋ごろに販売予定の新しいクラフトビールを楽しみにしてください。今後も私たちの研究室では、研究シーズ(酵母の高機能開発)と産業ニーズをマッチングさせることで、発酵・醸造食品の高付加価値化を目指し、地域貢献と海外展開を積極的に行いたいと考えています。

【研究背景】
奈良先端科学技術大学院大学は長らく、社会への貢献に向けて地域の企業や団体との密接な連携・協力を推進しています。そのなかで、私たちの研究室(ストレス微生物科学研究室)はビールや日本酒、パンなどの製造に関わる酵母※1 の育種技術を活用し、地域産業の活性化につながる発酵・醸造食品の開発を目指しています。これまでに、ゴールデンラビットビール社との共同研究(コラボレーション)により、奈良県産クラフトビールの商品開発に取り組んできました。コラボレーションの第 1 弾として、2021 年 7 月にはアミノ酸の一種であるプロリンを多く含むビール酵母の育種に成功し、この新しいビール酵母を用いて醸造したクラフトビールの販売を開始しました。このビールは、国の名勝である大和三山の「香具山」にちなんで「かぐやま」と名付けられ、ほのかな甘みを持った軽い口当たりに仕上がり、すぐに完売になるほどの人気でした。
今回、コラボレーションの第 2 弾として、奈良県産の天然酵母を用いたクラフトビールの共同開発を実施しました。

【開発内容】
奈良県産の天然酵母を探索する場所として、「ならまち」エリアに着目しました。「ならまち」は平城京への遷都以来、「寺社のまち」、「商業のまち」、「観光のまち」として、人々の営みとともに発展してきた豊かな歴史や文化を有するエリアです。このような地域には、奈良県らしさを感じさせるユニークな酵母が生息していることを期待しました。
まず、「ならまち」エリアの家屋や植物などから複数の試料を採取してきました。これらの試料から、ビール醸造に必須である原料の麦芽糖を取り込み、分解する能力(マルトース資化性※2)を指標に、多数の酵母を取得しました。その後、細胞の形態観察と DNA 配列解析※3 から、一般的なビール醸造に使用される酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)を 5 株選抜しました。さらに、マルトースを含む培地で行った簡易的な発酵試験から、ビール醸造に適した株(GR9 株と命名)を単離することに成功しました(図 1)。GR9 株は偶然にもゴールデンラット社の建屋(築 60 年以上の木造)から単離したもので、いわゆる「蔵つき酵母※4」だと思われます。また、ゴールデンラビットビール社において GR9 株を用いたビールの試験醸造を行ったところ、「ならまち」らしさをイメージする穏やかな味わいと、ふくよかで軽い口当たりのホワイトエールタイプの酒質であることがわかり
ました。この蔵つき酵母で醸造したクラフトビールは、大和三山の「畝傍山」にちなんで「うねびやま」という商品名(図 2)で 7 月 7 日(木)より販売を開始する予定です。

【今後の展開】
現在、コラボレーションの第三弾を進めており、奈良県(平群町)の特産であるバラを活用したビールの共同開発を試みています。実際、バラの香り成分(フェネチルアルコール)が約 10 倍増加した酵母の育種に成功しており、バラの香りを感じる特色のあるビールが完成しつつあります。今後も、奈良先端科学技術大学院大学とゴールデンラビットビール社は奈良県産ビールを通じて奈良の魅力を伝えることで、地域の活性化に貢献していきます。

【謝辞】
本研究は、(公財)奈良先端科学技術大学院大学支援財団「奈良先端大発 新事業創出支援事業」に研究開発経費をご支援いただきました。この場を借りて、厚くお礼申し上げます。

【用語解説】
※1:酵母
自然界には 1,500 種以上の酵母と呼ばれる単細胞の微生物が存在しているが、今回、選抜された酵母はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属しており、ビールや日本酒などの酒類やパン類の製造に使用される。
※2:マルトース資化性
ビールの原料である麦汁にはマルトース(麦芽糖)と呼ばれる糖類が多く含まれており、ビール醸造時に酵母はマルトースを取り込み、分解することでアルコールを産生する。取り込み、分解することを「資化」と呼ぶ。
※3:DNA 配列解析
生物種ごとに独自の DNA 配列が存在するため、DNA 配列を調べることでサッカロマイセス・セレビシエを選抜できる。
※4:蔵つき酵母
古くからその酒造・酒造場に住み着いている独特の酵母のことを言う。

【解説図】

図1 酵母の麦汁を用いた発酵試験

図2 GR9株で醸造したクラフトビール「うねびやま」の販売用ラベル

 

【ストレス微生科学研究室】
研究室紹介ページ:https://bsw3.naist.jp/courses/courses305.html
研究室ホームページ:https://bsw3.naist.jp/takagi/

 

(2022年07月11日掲載)

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