NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

高木博史教授が社団法人日本農芸化学会から第5回農芸化学研究企画賞を受賞しました

3月26日付けで、細胞機能学講座の高木博史教授が ( 社 ) 日本農芸化学会 ( 磯貝 彰会長 ) から第5回「農芸化学研究企画賞」を受賞しました。本賞は産学官連携強化のため設定した農芸化学分野の重点研究領域における斬新な研究企画を広く募集し、本賞の趣旨に賛同した企業より寄附された研究資金を産学官学術交流委員会が選出した研究者に研究奨励助成金として贈呈することにより、農芸化学のさらなる発展をめざすものです。第1回の同賞には、同講座の桂樹徹准教授も受賞しています。なお、授賞式は3月26日に日本農芸化学会2008年度大会 ( 名古屋 ) にて執り行われました。

受賞コメント

この研究助成は将来の産業化が期待される「研究の芽」に対して、賛同企業の寄付金から送られるものであり、今回の受賞は大変光栄であると同時に重い責任を感じています。本研究は5年ほど前にストレスに非常に弱い酵母の変異株を分離したことからスタートしています。「ユビキチンシステム」は真核生物の重要な生命現象に関わっており競争が熾烈な分野ですが、システムへの理解を深める基礎研究だけでなく、独自の発想によりバイオ燃料用酵母の育種などの応用にも展開できる研究テーマです。これからも研究室の仲間と熱く研究に取り組みたいと思います。

受賞内容

ユビキチンシステム工学による新規バイオエタノール生産酵母の育種バイオエタノール生産に用いられる酵母Saccharomyces cerevisiaeには、セルロース分解能、キシロース資化能の他にエタノール生産能の向上が大きな課題ですが、エタノールの毒性やエタノールに対する酵母の応答機構が不明であり、実用レベルでの報告はほとんどありません。私たちはストレスで細胞内に生じる異常タンパク質の処理に関わるユビキチンシステムの強化により、酵母のストレス耐性を向上できる可能性を見出しました。本研究では、ユビキチンシステムにおける重要な酵素ユビキチンリガーゼRsp5に着目し、エタノールストレスにおける機能解析および高機能型Rsp5の創製を行います。また、高機能型Rsp5によりユビキチンシステムを強化した酵母を作製し、バイオエタノール生産への効果を評価する予定です。将来的には実用的なバイオエタノール生産酵母を育種し、生産性の向上や発酵時間の短縮などをめざします。


上:ストレスにおけるユビキチンリガーゼRsp5の新機能 ( 異常タンパク質の分解 ( 左 ) と修復 ( 右 ) )
下:ユビキチンシステム工学の概念図 ( 酵母のユビキチンシステムを強化し、エタノールなどのストレス耐性を向上させる )

関連する論文
  1. Y. Haitani, H. Takagi
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  2. M. Demae, Y. Murata, M. Hisano, Y. Haitani, J. Shima and H. Takagi
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  3. H. Hiraishi, M. Mochizuki, H. Takagi
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  4. Y. Haitani, H. Shimoi, H. Takagi
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  5. 高木博史
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  6. C. Hoshikawa, M. Shichiri, S. Nakamori, H. Takagi
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(2008年03月31日掲載)

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