NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

片岡浩介准教授が、(財)三菱財団から平成20年度自然科学研究助成の対象者に選ばれました

分子発生生物学講座の片岡浩介准教授が、(財)三菱財団から平成20年度自然科学研究助成の対象者に選ばれました。本助成は、科学・技術の基礎となる独創的かつ先駆的研究とともに、既成の分野にとらわれず、すぐれた着想で新しい領域を開拓する萌芽的研究に期待して助成が行なわれるものです。今年度は全国の大学・研究機関の研究者の1,018件の応募から51件が選ばれ、9月11日に授賞式が執り行われました。

助成受託のコメント

片岡 浩介 准教授 奈良先端大に赴任して以来、膵島β細胞の機能調節と維持の分子メカニズムの解明に取り組んで来ましたが、この研究課題に対して本助成をいただくことができ、たいへんありがたく、また光栄に存じます。これまで互いに支え合って一緒に研究をしてきた学生、ポスドク、スタッフの皆さんと一緒に喜びたいのと同時に、一層オリジナリティのある成果として発信していかなくてはと気を引き締めています。

助成受託研究テーマ

Dyrk1Aキナーゼから膵島β細胞のメタボリック・センサー機能の解明へ

酵母などの単細胞生物は栄養状態に応じて代謝状態を劇的させます。例えば、栄養枯渇時には飢餓に備えて新規のタンパク質合成を抑制し、栄養の蓄積を図り、細胞増殖を停止させます。一方、われわれヒトを含む多細胞生物は、糖や脂肪を蓄積する細胞(=肝細胞や脂肪細胞)と栄養状態をモニターする細胞(=膵島β細胞)を特化させ、内分泌系により代謝全体をコントロールすることによって、恒常性を維持しています。膵島β細胞は栄養状態のセンサーを持つ「司令塔」とも言える細胞で、その機能破綻は糖尿病などの疾患につながりますが、膵島β細胞のセンサー・システムの分子実体はよくわかっていません。本研究では、これまで研究してきたβ細胞の機能を司る転写因子MafAの活性を調節するタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)の役割を探ることによって、このシステムの実体に迫ろうとしています。


膵島β細胞のグルコース応答。インスリンを分泌するとともに、シグナル伝達系を介してさまざまな遺伝子の発現を変化させる。MafAは、β細胞の機能に必須な遺伝子群(図中の赤字)を制御する転写因子であり、リン酸化によって活性が調節されている。

関連する論文
  1. 片岡浩介
    Maf転写因子の生理機能と疾患・発癌. 実験医学, 25, 205-211 (2007).
  2. 片岡浩介
    インスリン遺伝子の発現制御と膵島β細胞の分化プログラム. 細胞工学 25, 28-32 (2006).
  3. Han S.-i., S. Aramata, K. Yasuda, and K. Kataoka
    MafA stability in pancreatic β-cells is controlled by glucose depending on constitutive phosphorylation at multiple sites by glycogen synthase kinase 3. Mol. Cell. Biol. 27, 6593-6605 (2007).
  4. Aramata, S., S.-i. Han, and K. Kataoka
    Roles and regulation of transcription factor MafA in islet β-cells. Endocr. J. 54, 659-666 (2007).
  5. K. Kataoka
    Multiple mechanisms and functions of Maf transcription factors in the regulation of tissue-specific genes. J. Biochem. 141, 775-781 (2007).
  6. Aramata, S., S.-i. Han, K. Yasuda, and K. Kataoka
    Synergistic activation of the insulin gene promoter by the β-cell enriched transcription factors MafA, Beta2, and Pdx1. Biochim. Biophys. Acta 1730, 41-46 (2005).
  7. Kataoka, K., S. Shioda, K. Ando, K. Sakagami, H. Handa, and K. Yasuda.
    Differentially expressed Maf family transcription factors, c-Maf and MafA, activate glucagon and insulin gene expression in pancreatic islet α- and β-cells. J. Mol. Endocrinol. 32, 9-20 (2004).
  8. Kataoka, K., S.-i. Han, S. Shioda, M. Hirai, M. Nishizawa, and H. Handa.
    MafA is a glucose-regulated and pancreatic β-cell-specific transcriptional activator for the insulin gene. J. Biol. Chem. 277, 49903-49910 (2002).

(2008年09月18日掲載)

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