研究成果の紹介
片岡浩介准教授が、(財)武田科学振興財団から2008年度医学系研究奨励の対象者に選ばれました
分子発生生物学講座の片岡浩介准教授が、(財)武田科学振興財団から2008年度医学系研究奨励の対象者に選ばれました。本奨励は、わが国の医学分野の進歩・発展に貢献する独創的な研究を対象とするもので、11月12日に授賞式が執り行われました。
助成受託のコメント
ここ数年来、膵島β細胞の機能調節と維持の分子メカニズムについて、遺伝子発現調節の観点からその解明に取り組んで来ましたが、その発展的課題である本研究課題に対して助成をいただくことができ、たいへんありがたく、かつ光栄に存じます。この分野における進歩に対する社会的な期待が大きいことを強く感じます。オリジナリティのある成果が発信できるよう、今後もいっそう真摯に研究に取り組んでいきたいと思います。
助成受託研究テーマ
膵島β細胞のグルコース感知システムの分子実体の解明とその破綻のメカニズム
膵島β細胞はグルコース(血糖値)に応じてインスリンを分泌する大切な細胞で、その機能が破綻すると糖尿病などの疾患につながりますが、膵島β細胞がグルコースを感知するシステムの分子実体はよくわかっていません。本研究では、これまで研究してきたβ細胞の機能を司るMafAなどの転写因子群の活性調節のしくみを探ることによって、このシステムの実体に迫ろうとしています。最近、MafA, Pdx1, Ngn3という3つの転写因子をマウスの膵外分泌細胞に遺伝子導入することによって、β細胞へと効率よく分化転換させることが可能であることが発表され、糖尿病の遺伝子治療への期待が高まっています。本研究は、膵島β細胞が生み出され、その機能がきちんと維持されるしくみを解き明かそうとするもので、応用面を支える基礎となるものです。
(上)膵島β細胞の分化過程。成熟なβ細胞は、インスリンを分泌することに加えて、グルコースに対する応答性を獲得する。この過程には転写因子MafAが必須である。
(下)MafAの活性は、GSK3などのリン酸化酵素による多重なリン酸化を介して、グルコースによってタンパク質分解などのさまざまな過程で調節されているが、未知な部分が多い。
関連する論文
- 片岡浩介
Maf転写因子の生理機能と疾患・発癌. 実験医学, 25, 205-211 (2007). - 片岡浩介
インスリン遺伝子の発現制御と膵島β細胞の分化プログラム. 細胞工学 25, 28-32 (2006). - Han S.-i., S. Aramata, K. Yasuda, and K. Kataoka
MafA stability in pancreatic β-cells is controlled by glucose depending on constitutive phosphorylation at multiple sites by glycogen synthase kinase 3. Mol. Cell. Biol. 27, 6593-6605 (2007). - Aramata, S., S.-i. Han, and K. Kataoka
Roles and regulation of transcription factor MafA in isletβ-cells. Endocr. J. 54, 659-666 (2007). - K. Kataoka
Multiple mechanisms and functions of Maf transcription factors in the regulation of tissue-specific genes. J. Biochem. 141, 775-781 (2007). - Aramata, S., S.-i. Han, K. Yasuda, and K. Kataoka
Synergistic activation of the insulin gene promoter by theβ-cell enriched transcription factors MafA, Beta2, and Pdx1. Biochim. Biophys. Acta 1730, 41-46 (2005). - Kataoka, K., S. Shioda, K. Ando, K. Sakagami, H. Handa, and K. Yasuda.
Differentially expressed Maf family transcription factors, c-Maf and MafA, activate glucagon and insulin gene expression in pancreatic islet α- andβ-cells. J. Mol. Endocrinol. 32, 9-20 (2004). - Kataoka, K., S.-i. Han, S. Shioda, M. Hirai, M. Nishizawa, and H. Handa.
MafA is a glucose-regulated and pancreaticβ-cell-specific transcriptional activator for the insulin gene. J. Biol. Chem. 277, 49903-49910 (2002).
(2008年11月19日掲載)