研究成果の紹介
組織を繰り返し切断し、小分けする仕組みを世界で初めて解明「一人二役」の遺伝子の発見- 再生医療への応用に期待 -
エフリン遺伝子が切断と整形の「一人二役」の働きをすることを、バイオサイエンス研究科分子発生生物学講座の高橋淑子教授らのグループが世界で初めて明らかにしました。平成21年4月20日(月)付けで「米国科学アカデミー紀要」にオンラインで掲載されました。
掲載論文
Watanabe, T., Sato, Y., Saito, D., Tadokoro, R. and Takahashi, Y. (2009) EphrinB2 coordinates the formation of a morphological boundary and cell epithelialization during somite segmentation. Proc Natl Acad Sci U S A 106, 7467-7472.
概要
哺乳類など脊椎動物の背骨をみると、同じようなサイズに分かれたパーツの骨が、縦にいくつも並んで連なっているのがわかる。このような繰り返し構造が胎児の中で作られるとき、もとは一続きだった細長い組織から、小さな組織が「切断」し分離されるというプロセスが、何十回も繰り返される。例えると、羊羹をその端から同じ幅でスライスし続けるようなものである。今回、この「切断」を引き起こす遺伝子が、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科の高橋淑子教授らのグループにより解明された。
高橋教授らはこれまでにも、背骨のもとになる「体節」とよばれる組織を使って、切断のしくみを研究してきた。そして切断される場所の細胞を、切断されるはずがない場所に移植すると、そこで新たな「切れ目」が作られることを見出しており、その成果が今回のエフリン遺伝子の発見につながった。
高橋教授らが、本来ならば切断は起こらない組織にエフリン遺伝子を働かせると、それだけで新たな切れ目ができた。また、体節はもともとばらばらの不定形の細胞が集まってできているが、切断と同時に、切断面の細胞のみが滑らかな上皮型へと変化する。高橋教授らは、エフリン遺伝子がこの上皮化にも関わることを発見し、エフリンが切断と整形の「一人二役」であることを世界で初めて明らかにした。わかりやすく例えると、レンガを半分に切断し、その切断面にペンキをぬって滑らかにするようなものである。
今回の研究を成功に導いた「胚内エレクトロポレーション(遺伝子導入)法」は、高橋教授らが開発し、日本が圧倒的なリードを誇る遺伝子操作法である。
「再生医療などへの応用」
エフリン遺伝子をうまく利用することで、再生中の組織を必要な大きさに分断し、患者に合わせて整形できる道が開けた。またその逆に、エフリンの作用をブロックすることで、ばらばらになっている組織をつなげる技術の可能性もみえてきた。
用語解説
- 「エフリン」
- エフリン遺伝子は、隣り合う細胞同士を物理的に離す作用がある。このとき片方の細胞にエフリンが、またもう一方の細胞にEphという遺伝子が働く。エフリンやEphは、今回のような組織の切断以外にも、動脈と静脈の区別、大脳や小脳などの区画整理、そして神経の混線を防ぐ役割をもつ。このため、心血管障害やアルツハイマー病の予防にも注目されている遺伝子である。
(2009年04月20日掲載)