NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

柴博史助教が文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞しました

バイオサイエンス科学研究科・細胞間情報学講座の柴博史助教が、平成21年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞し、4月14日(火)の正午から、虎ノ門パストラル(東京都港区虎ノ門4の1の1)で表彰式が行われました。

「若手科学者賞」は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究など、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた41歳未満の若手研究者に対して贈られる賞です。

受賞コメント

この度は、このような立派な賞を受賞することが出来まして大変光栄に感じております。また、この受賞は我々の研究が高く評価された結果であり、大変意義があるものであると感じております。これも磯貝彰教授、高山誠司教授をはじめとする細胞間情報学講座のスタッフ、学生、実験補助の方々および共同研究者のご指導、ご協力の賜と深く感謝しております。また恵まれた研究環境を提供していただいたバイオサイエンス研究科をはじめとした奈良先端科学技術大学院大学の関係各位にも深く御礼申し上げます。今回の受賞を励みにして、これからも精進を重ねて独自の研究を展開していきたいと思っています。

受賞内容

今回の受賞対象となった研究テーマは、メンデルの法則で知られる「優劣性」の現象です。アブラナ科植物は、自家受精を避けるための自他識別因子を両親から受継ぐが、なぜか片方の親の(優性側の)自他識別因子しか作られない場合があることが古くから知られてきました。今回、劣性側花粉因子をコードする遺伝子の発現調節部位を調べた結果、新規DNAメチル化により遺伝子発現抑制が起こることを発見し、「優劣性」という古典的な遺伝学の現象に、これまで誰も予測しなかった全く新しい仕組みが関わっている例があることを世界に先駆けて提示しました。今回の受賞は、この先駆的発見の功績が、高く評価されたものです。

図の説明

A. 花粉S因子SP11の発現様式と優劣性との関係
SP11遺伝子の葯タペート組織における発現(in situ hybridization、図上)
S52ハプロタイプはS60ハプロタイプに対して優性を示す。 劣性側のS60ハプロタイプのSP11遺伝子は劣性ホモ個体では葯タペート組織で発現しているが(右)、優性/劣性ヘテロ体では発現が見られない(中央)。一方、優性側のS52ハプロタイプのSP11遺伝子はヘテロ体でも発現が見られる(左)。

定量PCRによるSP11遺伝子の発現量と優劣性との関係(図下)
劣性ホモ体(P、S60S60)で見られる劣性SP11(S60-SP11)の発現は、優性/劣性へテロ体(F1)では、1/10000程度まで減少する。このヘテロ個体を自家受粉して得た劣性ホモ体(F2)ではS60-SP11の発現が回復し、その結果、F2個体の花粉は、S60ハプロタイプを持つ雌ずいに対して不和合となる。

B. 優性/劣性ヘテロ体(S52S60)、劣性ホモ体(S60S60)の葯タペートおよび葉組織におけるS60-SP11ゲノム領域のメチル化パターン
優性/劣性ヘテロ体(上段)、劣性ホモ体(下段)のS60-SP11ゲノム領域を複数(n > 30)bisulfite sequenceして各シトシン部位におけるメチル化の割合をプロットしたもの。優性/劣性ヘテロ体のタペート組織でのみS60-SP11遺伝子の5'上流域に高メチル化部位が見られる(枠内)。

C. 劣性側SP11のメチル化による発現抑制のモデル
優性側のSP11遺伝子周辺のゲノムに存在する何らかの因子(図中『?』で示した箇所)が、劣性SP11遺伝子のcis-element領域を特異的にメチル化する。その結果、劣性側SP11遺伝子の発現抑制がおこり、優性側のSP11タンパク質のみが産生される。

関連する論文
  1. 「The dominance of alleles controlling self-incompatibility in Brassica pollen is regulated at the RNA Level」Plant Cell vol.14、p491~504、2002年
  2. 「Dominance relationships between self-incompatibility alleles controlled by DNA methylation」Nature Genetics vol.38、p297~299、2006年

(2009年04月27日掲載)

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