NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

バイオサイエンス研究科の柳谷特任助教が第63回日本細胞生物学会大会で「若手優秀発表賞」を受賞

動物細胞工学研究室の柳谷耕太特任助教が第63回日本細胞生物学会大会で若手優秀発表賞を受賞しました。本賞は応募者の中から、審査員が選定し、8名に「若手優秀発表賞」を授与し、その中から、最終的に2名の「若手最優秀発表賞」が選出されます。

受賞のコメント

 この度は、このような名誉ある賞を受賞出来て光栄に思います。
我々は小胞体膜上で起こる非常に風変わりなmRNAスプライシングの機構を解析し、スプライシングの前駆体mRNAがコードするタンパク質が翻訳途中の状態で自身のmRNAを小胞体膜上にリクルートすることでスプライシングを効率化していることを明らかにしました。さらに翻訳途中の状態を安定化するために翻訳の一時的に停止することも見出しました。この受賞は我々のこれまでの研究成果が評価されたものであり、研究をサポートして頂いた河野研究室のメンバーの方々に深く感謝いたします。

受賞時の発表内容

 すべてのタンパク質は多数のアミノ酸が連なったひも状の分子として合成され, 正しい形に折り畳まれることにより、正常な機能を獲得する。コラーゲンやインスリンなどの細胞外で働くタンパク質は小胞体で折り畳まれるが、細胞が様々な異常環境に晒されると、小胞体の働きに障害が生じ、折り畳みが不完全な構造異常タンパク質が小胞体の内部に生み出されることとなる(この様な状態は小胞体ストレスと呼ばれる)。この様な異常事態に応じて細胞は小胞体の異常タンパク質の修復や分解を行う分子の合成量を増大させるシステムを駆動させて異常タンパク質の毒性から細胞を守る。近年、このシステムの破綻と糖尿病、脂肪肝などの成人病や神経変性疾患などの関連が示唆されているが、その一方で、そのメカニズムは十分には理解されていない。
 これまでの研究では, 小胞体ストレスに応じて動物細胞は転写因子XBP1を合成し, ストレス状態を解消する分子群の転写を誘導することが分かっていた。 XBP1は非常にユニークな遺伝子で、そのmRNAは前駆体型(XBP1u mRNA)として細胞質に存在する。細胞が小胞体ストレス状態に陥ると、XBP1u mRNAは小胞体膜に分布する小胞体ストレスセンサーによってスプライシングされ、その結果フレームシフトが起こって、転写因子XBP1をコードするようになる。
 このスプライシングは小胞体膜上で起こる非常にユニークな反応であるにもかかわらずその分子機構は十分明らかにはなっていなかった。我々はXBP1u mRNAと小胞体にあるIRE1が出会うメカニズムの解明に取り組んだ結果、XBP1u mRNAは自身がコードするタンパク質XBP1uによって小胞体膜上に標的化され、小胞体ストレス時に効率良くスプライシングを受けることを見出した。さらに、XBP1uの合成過程が一時的に停止することで、新生タンパク質を介したXBP1u mRNAの小胞体局在化が可能になることが明らかにした。

関連論文

Yanagitani, K., Imagawa, Y., Iwawaki, T., Hosoda, A., Saito, M., Kimata, Y. and Kohno, K. (2009) Cotranslational targeting of XBP1 protein to the membrane promotes cytoplasmic splicing of its own mRNA. Mol Cell 34, 191-200.

Yanagitani K.,Kimata Y.,Kadokura H.,Kohno K. (2011) Translational pausing ensures membrane targeting and cytoplasmic splicing of XBP1u mRNA. Science 331, 586-589

 

(2011年08月08日掲載)

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