NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

バイオサイエンス研究科の勝野弘子研究員、稲垣直之教授らが神経軸索の伸長に必要なアクチンとアクチン結合タンパク質の新たな輸送機構を解明

 バイオサイエンス研究科 神経システム生物学研究室の勝野弘子研究員、稲垣直之教授らは、物質創成科学研究科の細川陽一郎准教授、情報科学研究科の池田和司教授、愛知県立大学・情報科学部の作村諭一准教授、東北大学生命科学研究科の水野健作教授らと共同で、神経細胞の軸索が伸長するために必要なタンパク質であるアクチンやアクチンに結合して運ばれるタンパク質について、新たな輸送機構を明らかにした。
 この成果は、7月28日付Cell ReportsにIssue Highlightsとして掲載され、朝日新聞、 奈良新聞、日経産業新聞、日刊工業新聞等に記事として取り挙げられた。

Actin Migration Driven by Directional Assembly and Disassembly of Membrane-Anchored Actin Filaments
Hiroko Katsuno, Michinori Toriyama, Yoichiroh Hosokawa, Kensaku Mizuno, Kazushi Ikeda, Yuichi Sakumura, Naoyuki Inagaki

稲垣直之教授のコメント

 神経軸索内のアクチンとアクチン結合タンパク質の輸送は、36年前に初めて報告されて以来、その分子機構は不明でした。今回、軸索内のActin waveという現象に焦点を絞ってその仕組みを解析したところ、従来知られているモータータンパク質を介した輸送機構とは異なる仕組みで輸送されることがわかってきました。本研究は、本学次世代融合領域推進プロジェクトの支援を受けて、物質創成科学研究科の細川陽一郎先生、情報科学研究科の池田和司先生、愛知県立大学・情報科学部の作村諭一先生、東北大学生命科学研究科の水野健作先生らとの学際融合領域研究によってなされました。細胞内のActin waveは、皮膚や免疫細胞など、神経細胞以外の細胞でも報告されており、本研究成果により、様々な細胞内における分子輸送の研究が進むことを期待しています。



研究の概要

 脳内の神経細胞は、軸索を正しい場所に向けて伸ばし、結合することで脳の活動に必要な回路網を作る。軸索を伸ばすためには、タンパク質が軸索先端へと輸送される必要がある。しかし、軸索内を輸送されるアクチンやアクチン結合タンパク質については、その輸送機構が長らく不明だった。我々は、Actin waveと呼ばれる軸索内をアクチン線維が塊となって移動する現象(図1)に着目し、その移動機構の解明を行った。
 まず、一分子計測法により、軸索内に現れたアクチン線維の塊を詳細に観察したところ、アクチン線維が進行方向に重合し、後方では脱重合を繰り返す形で全体的に移動していることがわかった(図2)。また、アクチン線維の重合の速度を速めるとアクチン線維の移動速度が速まり、重合速度を遅くすると、アクチン線維の移動速度も遅くなった。次に、アクチン線維が細胞接着タンパク質により、細胞膜や細胞外基質へ連結する度合いを強くするとアクチン線維の移動速度は速くなり、連結を弱くすると遅くなった。この連結によって細胞外基質に生じる駆動力を計測すると、進行方向とは反対向きに路面を掻くような力が生じていることがわかった。さらに、レーザー光を用いて軸索の途中にアクチン線維が細胞外基質に連結できないような加工を施すと、アクチン線維の輸送がそこで停止して軸索の先端に到達できず、軸索の伸長も抑えられた。また、実験で得られたデータに基づき数理モデルを構築してアクチンおよびアクチン結合タンパク質の動きを計算した結果、細胞膜や細胞外基質に連結したアクチン線維が方向性を持った重合・脱重合を繰り返しすることで前進し、一方アクチン結合分子はアクチン線維に結合することで輸送されることがわかった(図2)。
 今回の発見は、軸索の伸長のために必要な分子でありながら、その輸送機構が不明であったアクチンに着目し、その輸送機構を明らかにした。この仕組みは、従来知られているモータータンパク質を介した細胞内の分子輸送機構とは異なる新しい仕組みである(図1) 

図1 蛍光タンパク質(RFP)で標識したアクチン(赤色)を遺伝子導入した培養海馬神経細胞を6分間隔で撮影した。GFP(緑色)は細胞の形を表している。軸索の根元で発生したアクチンの塊が軸索先端へと移動している(白矢頭)ことがわかる。 


図2 従来から知られている微小管上を動くモータータンパク質を介した細胞内タンパク質の輸送の仕組み(上)と今回明らかになったアクチンとアクチン結合タンパク質の輸送の仕組み(下)。既知の輸送機構では、分子が微小管上を移動するモータータンパク質(オレンジ)に積み荷として結合することで輸送される(黒矢印、上)。一方、今回明らかになった仕組みでは、軸索内でアクチン線維が進行方向を向いた重合と後方での脱重合を繰り返す(赤矢印)。そのアクチン線維は、細胞膜を貫通する細胞接着タンパク質を介して細胞外基質に連結される(黄色円柱)。この連結とアクチンの方向性を持った重合により、アクチン線維が前進する(黒矢印、下)。また、アクチン単量体は拡散によって前方に向かって移動する(赤矢印)。アクチン結合タンパク質(青)は、拡散と移動するアクチン線維への結合を介してアクチン線維とともに輸送される(青矢印)

【神経システム生物学】

研究室紹介ページ:http://bsw3.naist.jp/courses/courses204.html
研究室ホームページ:http://nippon.naist.jp/inagaki_g/

(2015年08月05日掲載)

研究成果一覧へ


Share:
  • X(twitter)
  • facebook