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第九回梅園賞授賞式が開催されました。
動物細胞工学研究室特任助教、柳谷耕太博士が第9回梅園賞を受賞しました。8月31日淡路夢舞台国際会議場において開催中のバイオサマーキャンプ2012の三日目のプログラムとして、第9回梅園賞の授賞式と記念講演が行われました。今年も昨年と同様、サマーキャンプの他の発表と同様に英語での発表となり、海外からの招聘者を含む128名の参加者が聴衆となりました。
梅園賞は、梅園基金の設立趣旨に沿って、熱気溢れる時期にバイオサイエンス研究に精進し、本学を拠点にして優れた研究成果(論文発表)をあげた本学の助教あるいはポスドク研究員の1名を顕彰するものです。対象者が研究の推進に中心的な役割を果たしたと認められる発表論文(2010年6月1日~2012年5月31日の期間に査読付き国際学術誌に発表されたもの)の学術的価値とオリジナリティの高さに審査の重点が置かれています。受賞者には表彰状と目録が授与されました。
第九回梅園賞受賞者 動物細胞工学研究室 柳谷特任助教のコメント
このたびは梅園賞という素晴らしい賞に選出して頂き、非常に光栄に思います。実は、私は梅園賞を取ることを博士課程の頃から目標にしていました。それなので、喜びもひとしおです。今回の受賞では、一見非効率的とも思われる翻訳の一時停止が、実は小胞体ストレスの解消に役に立っていたという研究を評価して頂きました。この現象を参考に、時には立ち止まることも大切にしながら、今後とも研究に邁進していきたいと思います。最後に、研究をサポートして頂いた河野憲二教授をはじめ、河野研究室のメンバーの方々に深く感謝いたします。
柳谷耕太助教の発表内容(演題と要旨)
「A Pause for A Homeostatic Regulation of The Endoplasmic Reticulum」
すべてのタンパク質は多数のアミノ酸が連なったひも状の分子として合成され, 正しい形に折り畳まれることにより、正常な機能を獲得する。コラーゲンやインスリンなどの細胞外で働くタンパク質は小胞体で折り畳まれるが、細胞が様々な異常環境に晒されると、小胞体の働きに障害が生じ、折り畳みが不完全な構造異常タンパク質が小胞体の内部に生み出されることとなる(この様な状態は小胞体ストレスと呼ばれる)。この様な異常事態に応じて細胞は小胞体の異常タンパク質の修復や分解を行う分子の合成量を増大させるシステムを駆動させて異常タンパク質の毒性から細胞を守る。近年、このシステムの破綻と糖尿病、脂肪肝などの成人病や神経変性疾患などの関連が示唆されているが、その一方で、そのメカニズムは十分には理解されていない。
これまでの研究では, 小胞体ストレスに応じて動物細胞は転写因子XBP1を合成し, ストレス状態を解消する分子群の転写を誘導することが分かっていた。 XBP1は非常にユニークな遺伝子で、そのmRNAは前駆体型(XBP1u mRNA)として細胞質に存在する。細胞が小胞体ストレス状態に陥ると、XBP1u mRNAは小胞体膜に分布する小胞体ストレスセンサーによってスプライシングされ、その結果フレームシフトが起こって、転写因子XBP1をコードするようになる。
このスプライシングは小胞体膜上で起こる非常にユニークな反応であるにもかかわらずその分子機構は十分明らかにはなっていなかった。我々はXBP1u mRNAと小胞体にあるIRE1が出会うメカニズムの解明に取り組んだ結果、XBP1u mRNAは自身がコードするタンパク質XBP1uによって小胞体膜上に標的化され、小胞体ストレス時に効率良くスプライシングを受けることを見出した。さらに、XBP1uの合成過程が一時的に停止することで、新生タンパク質を介したXBP1u mRNAの小胞体局在化が可能になることが明らかにした。
(2012年09月25日掲載)