卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
松浦 秀幸 さん
- 大阪大学大学院薬学研究科 附属実践薬学教育センター
- 2007年度(博士) 植物代謝調節学
最近、「ウロウロ主義」という興味深い言葉に出会いました。
私は博士後期課程の四年間を、本学植物代謝調節学講座の新名惇彦教授のもと過ごしました。植物バイオテクノロジー関連の研究への興味から、勤めていた会社を退職し、一念発起しての入学でした。今思えば危なっかしくスマートでない選択をしたものだと思わず苦笑してしまいますが、植物や分子生物学等に関する知識や技能もままならない私に対しても、奈良先端大及び新名先生は門戸を開いてくださり、加藤先生を始め多くの方々のご指導の下、研究者としての土台を築いて頂きました。多様な背景を有する人材を受け入れ育てようという奈良先端大のカルチャーに感謝するばかりです。奈良先端大は規模が小さいゆえに研究室間の垣根も低く、様々な相互作用の中で、各学生の自由な発想に基づいて研究を進めるという雰囲気に満ちあふれていました。そうした環境の中で過ごすドクターコースというのは、自分の時間を徹底的に自分で決定できる希有で貴重な時間であったという思いを、それ故に自分の研究生活をうまく運営する能力を鍛える必要があったのだが、それに対する意識は低かったという反省とともに、今でも持っています。植物系の同期を始め、様々な研究仲間との出会いも、苦しいドクター生活に一つの彩りを与えてくれました。自分も含め皆が奈良先端大を離れ、それぞれの新たな世界で頑張っている姿は、今でも大変な刺激になっており、奈良先端大で得た貴重な財産の一つとなっています。
さて、私は現在、大阪大学大学院薬学研究科附属実践薬学教育センターにて、大学教育推進プログラム「食と環境の安全・安心を担う薬学人材養成教育」の運営に携わると共に、光合成生物の環境適応機構やその他有用な機能を、人の健康の基盤である健全で安全な環境・食の実現に活用することを指向した環境薬学研究・教育に従事しております。教育というのは全人的な営みであるということを痛感させられ、自分の力不足を思い知らされることが多々ありますが、素晴らしい先生方や明るく素直な学生さんに囲まれ、日々直面する新たな事柄に取り組んでおります。最近、「ウロウロ主義」という興味深い言葉に出会いました。「社会に出ると、色々な困難な壁にぶつかるが、大きな壁は大体乗り越えられないもの。社会の壁は甘くない。大事なことは、壁にぶつかったら、壁の前でウロウロしていることだ。ウロウロしていると、偶然に穴を見つけるかもしれない。その穴をほじくっているとぽこんと大きな穴があくかもしれない。誰かがロープを降ろしてくれるかもしれない。もうだめかと思ったら最後の日に壁が勝手に崩れたりする。もうだめだと逃げ出していたら、崩れたことも知らなかったかもしれない。とにかく、ちゃんとウロウロしていると、大丈夫なんです。」と言った趣旨のものです。今後も奈良先端大で培った力や精神をフル稼働しながら、奈良先端大の名を汚さぬようしっかりウロウロしたいと思っています。
奈良先端大には、充実した研究設備を始め、素晴らしい教員・事務の方々によって創成される教育・研究環境があります。しかし、そうした環境を生かすも殺すも、結局は自分次第だと思います。これから奈良先端大に入学される皆様、既に多くの卒業生が様々な分野で活躍しています。奈良先端大の出身者として共に頑張って行きましょう。
(最後列左端が筆者)
【2010年10月掲載】