卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
木村 祐介 さん
- 東和薬品株式会社 研究企画部
- 2005年度(修士) 分子発生生物学
興味のあることには何でも挑戦してきたからこそ、様々な出会いや貴重な体験に恵まれ、それが新しい可能性へと繋がってきました。
「たった一つの受精卵から、分裂、増殖、分化、コミュニケーションといった多様な現象が協調的に進行して個体という機能的な細胞社会が成立する。」発生生物学は、大学院進学試験勉強中に使っていたテキストの最後章にありました。この学問分野を是非学んでみたいと思い、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(現、多細胞システム形成研究センター)(CDB)に足を運びました。そこで奈良先端大の連携講座である高橋淑子先生にお会いし、その研究内容やスタンスに魅了されたのが奈良先端大進学のきっかけでした。奈良先端大では、このように学外の研究機関で学生として過ごせるチャンスもあります。
CDBは研究者にとって非常に恵まれた環境でした。最先端設備器機の充実、何より教科書に載っているような科学者が身近に沢山いらっしゃり、数多く開催されるシンポジウムやセミナーを通じて、世界の超一流科学者の話を直に聴くチャンスがあることでした。
このような日々は、私にとって非常に貴重な経験になったと同時に、将来の方向性を考えるきっかけにもなりました。というのも普通に大学で同期の仲間と研究をしていれば、自然とドクターへ進学していたかもしれません。しかし、私は事前にドクター後の世界に触れることで、科学者の世界は、少なくとも私の想像以上の厳しさであることを実感させられました。実験や英語が出来ることは当然のこと、必要な資金や研究の場所は自ら獲得し、そのための高いコミュニケーション能力やプレゼン能力が必要とされるマルチプレイヤーでなければならない。それに対し、会社組織というのは様々な部署があり、各人が自分の強みを発揮し全体として効果的に機能する。
悩んだ末、就職することを決意しましたが、活動開始時期も遅く、焦りなどから中々内定が頂けませんでした。そんな中、自分のこれまでを初めてじっくりと振り返りました。自分は興味のあることには何でも挑戦してきたからこそ、様々な出会いや貴重な体験に恵まれ、それが新しい可能性へと繋がってきたのだと。ダーウィンの言葉「生き残ったのは、強い者でも賢い者でもない。変化に対応した者が生き残ったのだ。」を思い出し、これも自分の強みなのだと、ふっきれて以来、就職活動という新たな変化を楽しむようになりました。
いくつか内定を頂いた中から、ジェネリック医薬品というこれからの将来性を期待し現在の会社に入社しました。入社後3年間は、研究開発の中心である製剤研究部に所属し、現場で粉まみれになり仕事をしていました。そんな中、研究所では会社の成長による人や設備の増加に伴い、様々なシステムの改革が必要となっていました。次第に興味は研究から会社の仕組みや組織といったものへ移ってきました。現在は、研究企画部に異動し、現場経験を生かしつつ、そのような様々な改善や研究開発全般における品質保証システムに関する仕事を行っています。
ある映画のワンシーンで印象に残った台詞がありました。「It's difficult to understand the sun of a parson's life.」人は人。変わりゆく環境の中で、自分の価値観はどうか、自分の強みは何か、どうすれば成長できるかといったことを、その時々で考え自分らしく生きていきたいです。
(前列左端が筆者)
【2010年10月掲載】