卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
坂田 賢成 さん
- アストラゼネカ株式会社 研究開発本部
- 2005年度(修士) 細胞内情報学
大学院を考えられている多くの学生さんへ。
これを読んでいる学生さんには、既に大学院への進学を心に決めている方、就職と大学院のどちらを選択しようか迷っている方、研究分野の畑替えをしたいと思っている方、卒業後の進路について考えている方など多くいらっしゃると思います。そんな皆さんの迷いを少しでも払拭出来ればと思っております。
私の大学院への進学は至って単純なもので、中高大とあまり勉学に励んだ経験がなく、せめて一個ぐらいはSpecialityを持って社会人になろうと思い、大学院進学を決意しました。大学時代は、化学を専攻していましたが、小学生の頃から大好きだった生物が忘れられず畑替えしたいと思い、大学4回生になる頃から少しずつ独学で勉強し、奈良先端大に入学しました。
入学当時は、細胞内情報学講座で伊東教授や多くの先輩方より一から基礎知識や実験手法を教えて頂きました。その中でも、伊東教授及び研究室のメンバーとの週一回のGroup Meetingは今の私の基盤を作るきっかけとなりました。Meetingでは必ず①「これまでの実験系の組み立て」、②「その結果発表」、③「結果から考えられる今後の展望」、④「その実験系の組み立て」を報告してきました。今も物事を考えるときにこの習慣が大いに役に立っております。知識だけでなく、知恵や考え方を指導頂いたおかげで、ほとんど無知だった私が、研究室に所属した約2年間で新規GPCR 56(G-protein coupled receptor)のタンパク生成、それを用いた抗体作成に成功し、GPCR56の機能解析の実験系を立ち上げる事が出来ました。GPCR56は、大脳の構成、がん細胞の存続や浸潤の関与が示唆されている大変興味深いタンパクです。
現在私は、イギリスに本社がある外資系製薬会社アストラゼネカ株式会社の研究開発本部にて、新薬の開発の仕事に携わっています。患者さんの安全性、倫理性を担保しながら、投与された新規抗がん剤のデータ(有効性、安全性)を正確に医療機関から回収する「モニター」という仕事をしております。大学院で学んだ実験などを直接仕事に活かす事はありませんが、そこで得た知識や知恵、考え方は、仕事をする上での基盤となっています。勤務地は国内ですが、臨床試験のデザイン決めや今後の方針を協議するため、日常的に国外の人と電話会議、ビデオ会議、メールなどでコンタクトをとり、日本国内だけではなく、世界を舞台に仕事をしています。
将来の私の展望としては、いかに効率よく、日本にドラッグラグがなく、新薬が世に出るかを見据えて開発を計画していきたいと思っています。そのためには、大学院で学んだ上記① ∼ ④より、無駄のない候補化合物の取捨選択や、臨床試験の計画書を立案、考察、作成し、多くの新規薬剤を世界同時に患者さんへいち早く届けたいと考えています。
私は、研究者とは違った道に進んだ卒業生の一人です。今、色々悩まれている学生さんに一言。とにかく行動し、出来る限りの事をしっかり頑張ってみてください。今は頑張った分だけ、結果が出ます。その中で奈良先端大を選ばれた方、施設・設備は全く申し分ありません。但し、施設、設備だけでなく、ここは研究者や社会人の育成についても行き届いている学校です。これから一流の研究者になりたい方はもちろん、研究者以外の道に進む方も非常に有意義な時間を奈良先端大で過ごす事が出来、十分にその後の人生につなげていく事が出来ます。
今後、多くの奈良先端大卒業生が様々な分野において世界の舞台で活躍される事を願っています。
【2010年07月掲載】