NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究室・教員

卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -

石崎 逸子 さん

  • アルバック・ファイ株式会社
  • 2004年度(修士) 生体高分子構造学
石崎 逸子さんの近況写真

はじめまして。H16年度、バイオサイエンス研究科修士課程卒の石崎です。今私は「アルバック・ファイ(神奈川県 茅ヶ崎市)」という表面分析装置のメーカーで働いています。奈良先端大では表面分析という言葉を聞いたことがない方が大半だと思います。簡単に説明すると、サンプルにX線や電子線、イオンビームを照射し、放出された電子や削り取られた原子イオン、分子フラグメントイオンを観測することにより、最表面から10nmくらいの深さまでの構成原子や分子、それらの結合状態を評価することができるという分析手法です。私はその中のX線光電子分光装置と二次イオン質量分析装置を担当しています。装置を販売するに当たって、実際のサンプルからどういった情報が得られるのか、またその操作性などを実際購入するお客様に見てもらうのですが、その時のオペレーションと分析結果の報告が私の主な仕事のひとつです。

今年で入社4年目になります。入社するまでは私もその分析手法すら知らなかったため、ありがたいことに今でも毎日が勉強です。学生のころ、私はずっと生体高分子について勉強してきました。しかし表面分析においては対象とするサンプルは無機物が多く(分析に高真空を要するため、半導体や金属など無機材料の表面評価に使われることが多いのです。) 私はそれらの基本的な物性を知りませんでした。そのためまず自分が勉強してからでないと話にならなかったからです。オペレーションの仕事というものは、ある程度時間をかければ誰にでもできる仕事だと思っています。私は自分の知らなかった分野を勉強させてもらえたこと、この先も(部署を飛ばされなければ・・・) もっとたくさんの材料について勉強させてもらえることに感謝しています。

私は今夢を持っています。
近年バイオ産業の発展などにより有機材料への関心の高まりつつあります。表面分析業界においても例外ではなく、欧米の学会ではポリマーや生体高分子をサンプルに用いた研究発表が大半を占めつつあります。半導体など無機材料への応用は既に長い歴史があり、そういった業界では技術や装置が普及しきってしまったこともあるかもしれません。しかし日本での有機材料への応用はまだまだというのが現状です。幸か不幸か今の会社で分子生物学の勉強をしてきたのは私だけです。今私は研究テーマとして日本ではまだメジャーではない生体材料の表面評価に着手しています。例を挙げると組織や細胞表面の分子イメージングなどです。細胞膜主成分のフォスファチジルコリンやコレステロール、糖鎖の伸びる様子などが実際に描けることを想像してください。生体高分子の表面評価を国内で普及させることが私の夢です。私には学生のころの知識と入社してから学んだ表面分析の知識があり、そして目の前に分析装置があります。まだまだ未開拓なのでテーマも多く、今大学病院や研究機関の先生たちと相談しながらいくつかの案件を進めています。問題は沢山あります。水分が飛んでしまう高真空下で生体高分子を分析するわけですから、測定はもちろんその分析結果にも慎重になるケースがほとんどです。でも私はバイオサイエンスに表面評価を用いることにより必ず有益な情報が得られると信じているので、一生の仕事として続けていくつもりです。

最後になりますが、私は自分の歩んでいる道に満足しています。仕事の話ばかり書きましたが、私はお酒を飲むことが好きで、これまでの人生の3分の2くらいはそうやって友達や両親と楽しく過ごしてきました。その半分でも勉強に費やしていたら、私の夢はもっと早く叶うのだろうということはよく解っています。でも人生を振り返ったとき、勉強でも遊びでも仕事でも、どんな場面でも自分がとにかく一所懸命生きていること、そのとき遠くから、近くから私を支えてくれた人がたくさんいることだけは誇りに思っています。

【2009年10月掲載】

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