卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
石井 翔 さん
- 株式会社ミツカングループ本社 中央研究所
- 2005年度(修士) 微生物分子機能学(RITE)
もともと生物には興味があったのですが、バイオサイエンス研究に強く惹かれた理由は中学生や高校生の頃に理科の授業で習った「酵素」、「光合成」に大きな可能性を感じたからです。酵素は自身が変化することなく反応速度を劇的に高めます。光合成は光エネルギーを化学エネルギーとして固定する反応です。例外などありますがこれらは生物に特有の優れた能力と言えます。当時、直感的にこのすごさを感じ、生物を利用して何か物作りができないかと漠然とですが考えるようになりました。
私が京都府立大学農学部の4回生の時には遺伝子操作の技術が一般的に普及しており、この技術により生物の能力をより高めたり、あるいはその仕組みを解析したりする事が可能になっていましたので、このようなアプローチでバイオサイエンス研究に取り組む事を決めました。当時の研究室ではイネの乾燥ストレス耐性に関する研究を行っていました。ここで遺伝子工学の基礎をしっかりと教えて頂きました。その後、より応用に近い研究を求めて奈良先端科学技術大学院大学に移り、連携講座である微生物分子機能学講座でお世話になりました。この研究室は生分解性プラスチックやバイオエタノールなどに関わる微生物を使った応用研究を中心に行っています。私のテーマはまだ誰も探索したことのない地下から微生物のもつ有用な遺伝子を探し出すことでした。指導教官である湯川教授からは微生物実験、産業利用の観点、発表指導など多くの事を教えて頂きました。連携講座だった事もあり職業研究者が多かったのですがプロの研究姿勢には日々良い刺激を受けました。そのおかげで、高温で活性を有する酵素の遺伝子を取得する事ができ、この成果が認められ最優秀学生賞を頂く事ができました。この時期の経験は直接、間接関わらず今も役立っております。就職先の(株)ミツカングループ本社中央研究所では食酢に関する研究をしております。更に現在は共同研究先の東京大学で味覚に関する研究を行っております。食酢は日本人の食生活に欠かす事のできない基礎調味料です。日本の食酢は米を微生物によって発酵させ作られるのが一般的です。そして人間の舌が味わいます。振り返るとイネ、微生物、食酢、味覚と様々なテーマで研究に取り組んできたことと食酢の製法がよく重なっています。今でもミツカンのお酢の品質はとても良いですが、これまでの幅広い研究の知見を活かしながら更においしいお酢作りに励みたいと思っています。
【2009年10月掲載】