卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
岸 忠明 さん
- Med Discovery SA, Research and Development Division
- 2000年度(博士) 構造生物学
私は1996年に奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科に入学し箱嶋敏雄教授の生体高分子構造学講座(当時9に所属しました。私の研究テーマは細胞構造学講座の塩坂貞夫教授が機能解析を続けておられるマウス脳内プロテアーゼNeuropsinのX線結晶構造解析でその構造解析を前期課程で終え、後期課程では特異的インヒビターとの複合体の構造解析を最終目標としてマウス脳から特異的インヒビターの同定を行ないました。私は公式には前期・後期課程を通じて生体高分子構造学講座に所属しましたがテーマの関係上後期課程は主に細胞構造学講座でお世話になりました。
2001年春に博士後期課程を修了した後カナダのToronto大学付属Mount Sinai病院のEletherios P. Diamandis教授の研究室に留学し、ヒトNeuropsinとそのファミリー分子のがんに関する機能解析をテーマとしました。留学2年目にはスイスのLausanne大学付属病院泌尿器科との共同研究をきっかけとしてスイスへ赴任するチャンスを得て、現在はその赴任先のDavid Deperthes教授が2002年に起業したMed Discovery SA社(Geneva)に勤務しています。同社は泌尿生殖器がんの診断・治療を目的とした蛋白性候補分子の開発を行なっており、現在は前立腺がん関連プロテアーゼhK2に特異的なリコンビナントインヒビターの開発に従事しています。前立腺がんは欧米で発生率の高いがんで男性がん死亡率の約20%にあたることに加え、日本でも年々増加傾向にあります。現在の候補分子が何時の日か市場に出て多くの患者さんの治療に役立つことを夢見ながら日々仕事に励んでいます。
私は奈良先端大・留学時代も含め常に蛋白質を研究対象としてきました。また特に一貫してプロテアーゼに関連する研究でしたから大学院時代に学んだ教科書的な蛋白質の発現・精製法はもちろんのこと、大学院・留学時代に自分自身や同僚の研究の中から出てきた疑問やトラブルなどに関するディスカッションから得られた知識なども現在の仕事に大いに役立っています。実験上で困ったことが出てくると同僚とディスカッションするわけですがそれでも不十分な時には奈良先大時代の知り合いにメールで相談したりしています。現在の会社は言うまでもなく、わりと施設の揃っていた留学先のToronto大学、 Lausanne大学と比べても奈良先端大の施設の充実振りは群を抜いており今も業務を行なう中で「奈良先端大ならあの機器が使えるのになあ。」と思うことがたびたびあります。当時はそれが当たり前でそれほど意識していませんでしたが留学後すぐにそれを痛感しました。おそらく今後もあれほどの研究施設を使うチャンスはなかなか巡ってこないでしょう。現在在学中の皆さんはその素晴らしい研究環境を思う存分使うことのできる立場にあるのですからそれを利用しない手はありません。また各研究室ではそれぞれの分野の興味をそそる多くのテーマが扱われています。現在海外在住ですが時々奈良先端大のホームページを覗き毎年素晴らしい研究成果が次々と発表されていることは知っています。近い将来そのページで皆さんの研究成果を見せてもらえる日を楽しみにしています。
(写真:中央が筆者)
【2009年10月掲載】