NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究室・教員

卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -

与語 圭一郎 さん

  • 静岡大学農学部 教授
  • 2002年度(博士) 細胞増殖学
与語 圭一郎さんの近況写真

私が奈良先端大を初めて訪れたのは10年ほど前のことです。当時、私は会社勤めのサラリーマンでしたが、研究生活への強い憧れを捨てきれず、大学で博士号を目指すことを決め、受け入れてもらえる研究室を探していました。理系出身とはいえ、DNAを見たことも触ったこともない分野にいましたし、ピペットマンを握っていないブランクも5年以上。果たして受け入れてくれるところはあるのだろうかと不安いっぱいな心持ちで、細胞増殖学講座・竹家先生の部屋をノックしたことを覚えています。

奈良先端大における研究生活はコネキシン43(Cx43)というギャップ結合構成タンパク質の卵胞発育における機能解析から始まりました。哺乳類の卵母細胞はその周囲を顆粒膜細胞に覆われています。これらの細胞はギャップ結合で直接連絡されていて、卵母細胞への栄養供給や減数分裂再開に関与することが知られていましたが、このチャネル活性がどのように調節されているのかはよく分かっていませんでした。私は、顆粒膜細胞のCx43が卵胞刺激ホルモンの刺激でリン酸化レベルが上昇することをみつけ、そのリン酸化部位をペプチドマッピングという方法で同定していくことにしました。リン酸化部位は複数あり、それら全て決定するのは大変でしたが、「片っ端から予想リン酸化部位に変異を入れ、ペプチドマップのスポット消失を確かめる」という愚直な方法でようやく決定することができました。実験が進み、リン酸化部位に変異導入したCx43はチャネル活性を失うことが分かったときは飛び上がるほど嬉しかったのですが、それと同時にこれでやっと論文を出せるという少し安堵に似た気分もありました。

博士号取得後も助手として4年ほどお世話になりましたので、博士課程在籍時とあわせ7年余りを奈良先端大で過ごしました。学内で頻繁に行われるトップレベルの研究者によるセミナーはとても刺激的でしたし、最先端の共通機器を自由に利用できる研究環境は素晴らしいものでした。これらに加え、竹家先生をはじめ奈良先端大における多くの方々との出会いが、現在の研究者としての私を形作っていると思います。

いま、私は静岡大学農学部で数人の学生たちとともに研究を進めています。テーマは哺乳動物における精子の分化機構で、新しく見出した遺伝子の機能を世界に先駆けて解明しようと奮闘しています。この地で、私が奈良先端大で味わったような、苦しみながらも何かを見つける研究の喜びを、次の世代に繋げていくことができればと思っています。

【2009年07月掲載】

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