卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
中村 奈央 さん
- 株式会社セルシード 製品開発部 マネージャー
- 2000年度(博士) 細胞内情報学
私は現在、再生医療を実用化することを目指すベンチャー企業で、製品開発業務に携わっています。病気や事故によって失われた体の組織、器官を自分自身の細胞を用いて治療する再生医療は、既存の治療法では治癒が望めない方や、移植医療においてドナー不足の問題に直面している方々に新たな可能性をもたらすことが期待されています。その一方で、製品として提供するためには解決しなくてはならない課題が数多くあります。生きた細胞が原料であり製品となる再生医療製品の開発は、分野自体が新しく前例が少ないこともあり、安全性・有効性指標の選定や、規格の設定、工程の妥当性を検証するための試験方法の確立等々、ひとつ一つ手探りで進んでいます。
このような再生医療の製品開発には、従来の医薬品・医療機器開発に必要な品質管理や薬事規制等の知識に加えて、細胞生物学、分子生物学、生化学、解剖学等の幅広く奥深い知識と、それらに基づいた工夫や知恵が求められるように思います。現在、製品開発の中で私が役割の一端を担うことができているのは、 奈良先端大で学んだことが研究者としての核となり支えとなっているおかげだと日々実感しております。
私は大学では遺伝学的手法と発生生物学を学びましたが、より幅広い知識と技術を身につけたいと考え、バイオサイエンス研究科の三期生として 奈良先端大に入学しました。充実した講義で基礎をしっかりと勉強でき、また、細胞内情報学講座に配属され、貝淵弘三先生(現名古屋大学大学院教授)のもとで分子生物学、生化学、細胞生物学の知識、技術を幅広く学べたことは私にとって大きな幸運でした。貝淵研では、低分子量GTP結合蛋白質Rhoの標的蛋白質であるRho-キナーゼの機能解析を通じて、実験技術だけでなく論理的なものの考え方や、研究の進め方、研究室内や共同研究先とのチームワーク、論文の書き方等、研究者としての基礎、基本を学ぶことができました。今も記憶に強く残っているのは、ウシ脳から蛋白質を分画・調製したり、アフィニティーカラムで結合蛋白質を探索する等の低温室での実験です。蛋白質の分解を抑えるために低温で作業する必要があったのですが、大学院に入るまでは生化学的なアッセイを経験したことがなかった私には新鮮な体験でした。「器具も4℃、試薬も4℃、それから手も4℃!」と、気を付けたことを思い出します。
奈良先端大では講義や実習、イベント等を通じて親しくなった他の研究室の先生方や同期生とのディスカッションや雑談にも刺激を受け、励まされました。基礎領域とは別の分野に挑戦する現在も、奈良先端大で得た友人、先生方、先輩、後輩の方々とのつながりは、かけがえのない財産です。これから奈良先端大に入学される皆さまにも、充実した研究生活を通じて自分の可能性を広げていっていただきたいと思います。
写真説明:共同研究先で温度応答性ディッシュから細胞をシート状に剥がすデモンストレーションをしているところ。蛋白質分解酵素を使わずに3次元構造を維持したまま細胞を回収できる性質を利用して、再生医療の製品を作ります。
【2009年07月掲載】