卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
高橋 和利 さん
- 京都大学 物質-細胞統合システム拠点 iPS細胞研究センター
(→カリフォルニア大学サンフランシスコ校 グラッドストーン心疾患研究所) - 2004年度(博士) 動物分子工学
私は遺伝子教育研究センター 動物分子工学部門に2000年4月から5年間在籍しました。入学後に行われた集中講義には全くついていくことができず、こんな状況でやっていけるのだろうかと不安な気持ちでいっぱいでした。奇跡的に試験はパスしたものの、不安は的中し研究は失敗の連続でした。原因は明確で、「自分が何の目的でこの実験を行っているのか?」ということが理解できていなかったのです。当時の私はそんなことには気づきませんでした。しかし、同期の仲間に早く追いつきたいという気持ちだけは強く、結果としてそれがモチベーションとなり努力できたように思います。どのような努力をしたかはもう忘れましたが、必死だったことは間違いありません。素晴らしい仲間に恵まれたことは本当に幸運でした。
私たちの研究対象である胚性幹 (ES) 細胞は体を構成する様々な組織へと分化することができます。ES細胞において特異的に発現する遺伝子群の機能解析を通して、皮膚などの分化した細胞をES細胞のように戻すことが私たちの目標でした。新規に同定したES細胞特異的遺伝子群の中にはホメオボックス遺伝子や原癌遺伝子Rasに類似した遺伝子が含まれていました。当時手元にあった「エッセンシャル細胞生物学」でホメオボックスを調べたところ、大きなハエの写真が出てきました。一方で、Rasといえば当時奈良先端大で講義をされていた貝淵弘三先生のとてもかっこいいイメージしかありませんでした。こうして迷うことなく選んだRas類似遺伝子はその後の解析により、ES細胞の抱える問題点のひとつである腫瘍形成に関与していることがわかりました。この研究においてはノックアウトマウスの作製、細胞培養や分子生物学的な実験をたくさん行いました。これらの研究を行うにあたりとても多くの先生方にお世話になりました。特に学位審査の公聴会においては審査員以外の多くの先生方が質問してくださったことが私の記憶に鮮明に残っています。私の学生生活は多くの方々に支えていただいたおかげで、本当に濃厚なものであったと感謝しています。
学位取得後の2005年には、研究室ごと京都大学の再生医科学研究所に移籍しました。こちらは病院との連携がスムーズで、再生医療を視野に入れた研究を行うには適していると感じています。しかし、奈良先端大の研究環境は本当に素晴らしかったのだと外に出てみて初めて気づきました。現在は、iPS細胞研究センターという発足したての機関に所属しています。2000年当初は数名程度の研究室でしたが、現在は約50名の大所帯になりました。今では奈良先端大出身でないメンバーがほとんどになりましたが、私たちの研究のベースは奈良先端大で築かれたという事を心に刻み、これからも研究を進めていこうと思います。
写真の説明。
(左から)奈良先端大での山中研究室設立時から動物実験を担当されている一阪 朋子さん、来年で10年目のお付き合いになる山中 伸弥教授 、筆者、とても優秀な京大院生の田邊 剛士さん 。
【2009年04月掲載】