卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
山本 隆晴 さん
- 北海道大学遺伝子病制御研究所分子間情報分野 助教
(→株式会社テクノプロ 研究管理マネージャー) - 1997年度(博士) 細胞内情報学
私は、大学4年生の卒業研究で分子生物学・生化学的手法の基礎を学んだ後、ヤクルト中央研究所に就職しました。ここには3年間勤務したのですが、恵まれた環境のもと研究者としても社会人としても多くのことを学びました。ここで発癌プロモーターに関するプロジェクトに関わる間に、シグナル伝達という分野に強く惹かれ、同時に、独立した研究者になるための教育を受けたいという気持ちが強くなりました。ちょうど低分子量GTP結合タンパク質Rasの標的タンパク質が同定され、シグナル伝達の分野が大変華やかな時期でした。
勤務しながら大学院入試の勉強を並行して行うのは大変だろうと考えていたところ、筆記試験のない奈良先端大の応募を見つけました。正直、最初は、楽な入試がよいという不純な動機があったことは否めません笑。何とか合格することができ、貝淵弘三先生(当時細胞内情報学講座教授、現名古屋大学大学院教授)というシグナル伝達の最先端を行く先生に巡りあうことができました。貝淵研では、一期生としてラボを一から起ち上げるという貴重な時期を体験するとともに、サイエンスの楽しさ・厳しさ、世界最先端の論文がどう仕上がっていくかなどなど、学んだことは数知れません。
現在は、北海道大学遺伝子病制御研究所分子間情報分野に助教として勤めております。田中一馬教授、鎌田このみ准教授とともに、出芽酵母をモデル生物として、細胞極性形成や細胞内小胞輸送における膜リン脂質の役割をテーマに研究を進めています。真核生物の中でゲノムプロジェクトが最初に終わった出芽酵母ですが、この単細胞生物には細胞が持つ基本システムについての素朴な疑問がまだまだ隠されており、生物学の奥深さを感じています。
大学院教育について
現在、私が担当する大学院は生命科学院細胞動態科学分野です。附置研究所のため学部生はおらず院生だけで研究に集中できる点では奈良先端大と同じです。ただ、私が受け持っている院生の生活と自分の奈良先端大での生活を比べると、奈良先端大がいかに優れた環境であったかということをつくづくと感じます。講義のカリキュラムは、分子生物学・生化学・細胞生物学の内容を幅広く奥深く学べるよう、どこの大学院よりシステマティックに構築されています。これは奈良先端大スタッフの長年の経験に基づいた努力の結果です。また、同じように生物科学を学ぶ同じ学年の院生が数多くいる、すなわち、実験に行き詰まった時に気軽に相談できる、また、同じレベルで同じ言葉で気軽にディスカッションすることができ自分自身の切磋琢磨につながる、という恵まれた環境にあります。生命科学系の大学院が乱立している感がある昨今ですが、奈良先端大は長い間に培われたノウハウにより、どのような道に進む方にとっても丁寧に教育が行われている最良の機関であると思います。
【2008年10月掲載】