卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
田中 宏幸 さん
- 株式会社鴻池組 土木技術部
- 1995年度(修士) 細胞機能学
土壌微生物の尻をたたく。または、ご機嫌をうかがう。これが私の仕事です。
私は、昨年まではつくば市にある鴻池組技術研究所に所属しておりましたが、現在は土木技術部に異動してバイオレメディエーションの現場適用に取り組んでいます。汚染サイトでデータを取ったり、実験をおこない、浄化方法としてそのサイトに有効かどうかを検討する毎日です。会社に入った当時、土壌浄化のなかでもバイオレメディエーションは10年先の技術だったのですが、早くも今年で10年になります。そろそろ「バイオ」という甘い幻想を断ち切って、事業性を示す段階に来ています。
子供のころのはなしですが、私はテレビを観ていて、捨てられたビニールや有害物質を分解する土壌微生物のことを知り、漠然と、将来はそういう微生物の研究をしたいと考えていました。理学部生物科に在籍時の卒論テーマはゴキブリでしたが、どうしても微生物の研究をあきらめきれず、たどりついた奈良先端大の細胞機能学講座で石油の嫌気的分解の研究に取り組むことになりました。放任主義だった研究室の雰囲気をいいことに、土壌菌の色とりどりのコロニーに目をうばわれ油の分解なんて楽勝だと思い込んでしまい、修論作成が迫ってからあわてふためいたりしているような2年間でした。
さて、私の場合、幸運にも微生物の研究が仕事になったのですが、入社以降、成果を出せない状態が何年も続きました。バイオレメディエーションの適用性を検討するための時間は短く、そのなかでポジティブなデータを出すことは工夫のいることでした。それから少しずつ経験を重ね、ようやく現場で微生物の活性についてああでもないこうでもないと議論できるまでになったのは夢のようです。これまでは培養こそがすべてだと考えていましたが、この頃では微生物生態学や遺伝子工学の世界が彼方にちらつきはじめ、微生物になって土のなかに住んでみたい衝動にすら、しばしば駆られます。
最後に奈良先端大に入ってよかったと思うこと、それは2つありますが、まずは、仕事についての動機が育まれたことです。もうひとつは、研究室の先生方や、様々な大学や企業からきた仲間たちとの出会いです。研究のみならず仕事を続けていくうちに、それが何のためのものかわからなくなってしまうときもあるために、和やかではあるが様々な価値観を内包した人間関係に身をおいて、ときには瞑想してみることは、かけがえのないことなのです。こんなことから、私は奈良先端大で変わったのかもしれない、行ってよかったと思います。
【2007年04月掲載】