卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
卯津羅 淳子 さん
- 長瀬産業株式会社 研究開発センター
- 2001年度(博士) 細胞機能学
在学中は、細胞機能学講座(谷吉樹教授)で土壌より分離したカビを用いて医薬品や液晶などの合成中間体として利用される光学活性アルコールを生産するためのバイオプロセスを開発する研究を行いました。この研究を通して、「目的の反応を触媒する微生物の効率的なスクリーニング法」、「反応生成物の同定法」、「目的の反応を触媒する酵素の同定法とその遺伝子のクローニング法」などについて学びました。
長瀬産業は、化学、プラスチックス、エレクトロニクス、医療、化粧品、健康食品等を取扱う化学専門商社であり、研究開発センターでは、医薬中間体や化粧品原料などの製造プロセスを開発しています。私の所属する研究チームでは、医薬品などの合成中間体や食品添加物など様々な有用物質を生産するためのバイオプロセスの開発を行っています。
従来は、化学プロセスと比較してバイオプロセスは、「反応の濃度が薄い、反応時間が遅い、コストが高い」といわれており、その利用範囲は限られていました。最近では、遺伝子工学的手法により生産目的にあわせて微生物を設計・改変し、物質生産を効率的に行う細胞を創製できるようになったことから、先に挙げたバイオプロセスの弱点を克服することが可能となりました。 このような状況から「高い反応選択性、常温常圧の反応、有機溶媒を使用しない」などのバイオプロセスの優位性が見直されており、環境調和型プロセスとして大きく期待されています。実際に私たちが手がけている医薬中間体の製造プロセスでは、製造に必要なエネルギーを現行法(化学プロセスとバイオプロセスの融合法)の5分の1にすることが可能であり、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の『バイオプロセス実用化開発プロジェクト』に採択されました (参照:日経バイオテク、2005.5-9)。
現在の研究の遂行には、微生物のスクリーニングや目的の反応を触媒する酵素の単離とその遺伝子のクローニングなど学生時代に学んだ知識が大いに役立っています。また、バイオサイエンス研究科では、講座の枠を超えた交流を推進する風潮が設立当初からあり、半年にわたる広範な生物学の集中講義やセミナーなどで得られた知識や人のつながりも現在の研究に欠かせないものになっています。
写真説明
作成した組換え体の3L容ミニジャーファーメンターによる培養実験中です。この試験で得られたデータを元に実用生産へ向けてスケールアップを行います。
【2005年10月掲載】