卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
巽 康年 さん
- 国立がんセンター研究所・ウイルス部
- 2003年度(博士) 動物分子遺伝学
自己紹介
私は三重大学で農芸化学を専攻後、奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科に入学しました。大学院時代は動物分子遺伝学講座に配属され、当時の吉川寛教授・小布施力史助手の指導のもと「ヒト染色体複製開始因子の機能解明」というテーマで研究を開始しました。現在は、第3次対がん10ヵ年総合戦略事業の研究分野を重点的に推進させるための若手研究者として国立がんセンター研究所・ウイルス部に所属し、かの有名な築地市場と銀座が徒歩圏内というこの上ない環境のもと、「ヒト染色体複製開始因子の制御異常と細胞のがん化」について研究を行っています。
経緯
私は大学の講義などを通じて、細胞核内に折り畳まれて納められている染色体(遺伝情報が書かれた設計図)の神秘に魅せられました。生命活動を維持するためには、この染色体上において染色体複製および遺伝子発現が秩序正しく起こること、特に遺伝情報を正確に伝えるために染色体複製は一回の細胞周期において完全にかつ一度だけ行われるよう厳密に制御されている点に興味をもち、動物分子遺伝学講座の選択に至りました。当時の染色体複製開始研究は、出芽酵母等のモデル生物を用いた解析が中心でした。現在では、複製開始に関わる各因子は種を越えて保存され、さらにその機能制御は高等動物になるにしたがってより複雑且つ巧妙になっていることが明らかになりつつありますが、入学当時はヒトの染色体複製開始研究は世界中でほとんど進展していませんでした。私の研究生活は、幸運にもこのヒト染色体複製開始研究の進展と共に歩んできました。現在はさらに発展させ、DNA腫瘍ウイルスによる発がんを含む細胞のがん化機構における染色体複製開始因子の関与についての解明をも目標としています。
一言
ヒトを含む各種生物のゲノム解読が終了した現在においても、依然として生命現象の全貌は明らかにはなっておらず、引き続き詳細な解析の必要性が残されています。奈良先端科学技術大学院大学は、各講座それぞれが世界の最先端を進む研究を行っており、いずれの分野に足を踏み入れるとしてもそこで最先端の知識や技術を学び自分の興味を掘り下げていくことは非常に楽しいものです。
写真
細胞内における蛋白質の発現を調べるために、蛍光ラベルした抗体を用いて哺乳動物培養細胞を染色し、蛍光顕微鏡により解析しています。
【2006年01月掲載】