卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
佐々木 俊弥 さん
- 株式会社タベルモ 代表取締役社長
- 2011年度(博士) ストレス微生物科学
奈良先端大で学んだ「売り込む」ということの大切さ
奈良先端大へは2007年に入学し、博士後期課程を含めて5年間、高木博史教授のもと応用微生物学を学びました。研究テーマには、酵母が産業利用時に曝されるストレスにどのように応答し適応しているのかを知ることで、産業応用を目指す研究を選びました。大学では生態学に近い学問領域にいましたが、人類が現在の多様性に富んだ生態系を破壊せずに生きていくにはどうしたら良いかと悩んだ末、石油をベースとした破壊的な産業をバイオテクノロジーに置き換える必要があるという結論に至り、この道を選びました。
その後、2012年に当時30名ほどのベンチャー企業である株式会社ちとせ研究所(旧株式会社ネオ・モルガン研究所)に入社しました。きっかけは高木先生が知り合いだったことでしたが、元々ベンチャーに興味があったこと、自分の思いをどう仕事にすべきか迷いの中に在ったところに、光合成を起点として物質生産の循環を作りたいという同社のコンセプトに、一つの道筋を感じたことから入社を決めました。現在は、食用の藍藻として知られるスピルリナの生産技術をビューテック株式会社と共同開発し(写真)、販売会社の株式会社タベルモを株式会社ちとせ研究所(旧株式会社ネオ・モルガン研究所)のグループ会社として2014年に立ち上げ、代表取締役社長を務めています。
将来的に事業を作りたいと考えていたことから、卒業後は研究職では無く営業としての道を選び、現在は社長として会社経営に携わっていますが、驚くことに研究の進め方と似ている部分に気づかされます。いま、頭を抱えていることは資金繰りです。現金が底を突けば会社が潰れてしまう状況下で、お客様にいかにスピルリナを「売り込む」か。それには、自分たちの商品を知ってもらい、共感していただくことが重要です。研究も同様に「売り込む」ことが大切です。自分のテーマについて、それが分かった時どんなすばらしい未来があるのかを説き、共感してもらう。それによって、研究費を調達し、メンバーを集め、結果を出していく、このようなプロセスの繰り返しではないでしょうか。
私は研究室の運営をしたことはありませんが、奈良先端大のカリキュラムや指導教官のご指導の下、研究を「売り込む」方法や大切さを学ぶことができました。奈良先端大のユニークな点として、発表機会の多さが挙げられます。私の場合、学内のセミナーや国際交流をはじめとして、博士後期課程時には毎年、海外の学会で発表する機会にも恵まれました。また、オープンキャンパスも年に数回開かれ、バイオを学んだことが無い方に対しての情報発信も求められ、いかに興味を持ってもらえるように話せるか、かなり鍛えられたと思います。これらの結果として、僅かではありますが研究室の研究費獲得の一端を担うこともできました。
在学生や卒業生の方は奈良先端大で最先端の専門知識や実験技術を習得できることは既に身を持って体感していることと思います。私の話はほんの一例でしたが、奈良先端大には、知識や技術以上に本質的な学びがあります。それは、進路にバイオ関係を選ばなかった卒業生も立派に活躍していることからも言えるのではないでしょうか。在学生やこれから入学を考えている方が、奈良先端大で何を得て修了するのか、その話をいつか耳にできる日が来ることを待ち遠しく思います。私もNAIST遺伝子を拡げていけるような「売り込む」努力を続け、日々邁進していきたいと思います。
【前列右から3人目が筆者】
【2014年11月掲載】