卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
桃原 淑 さん
- ロート製薬株式会社 研究開発本部 製品開発部
- 2011年度(修士) 動物細胞工学
製品開発の現場はNAISTの研究最前線の現場と似ていると思うのです。
私は現在、製薬会社で内服薬と機能性食品の開発を担当しています。NAIST時代は日々ピペットマンや顕微鏡を用いて細胞相手に実験を行っていましたが、今右手に持つのは柄付きスコップ、相棒は打錠機、そして数十キロの原料と格闘しながら製品開発に励む毎日です。携わる内容は在学時と大きく変わりましたが、目標を設定し結果を導くという過程は研究科における基礎研究と共通する部分が多々あり、奈良先端大で学んだことが確実に活きていると実感しています。
例えば、開発者の醍醐味の一つは自らコンセプトやストーリーを組み立てて実行できることですが、そのためには膨大な根拠データや文献などに当る必要があります。開発にはスピード感が求められ個々の製品開発にかけられる時間はどんどん短くなっています。その中で効率的に情報をインプット・アウトプットし、優先順位をつけていかに製品化に繋げるかということが、メーカー各社が競い合う現場では特に重要な条件であると日々感じています。そしてそれは正に奈良先端大の研究最前線の現場と非常に似通っていると思うのです。
奈良先端大では「動物細胞小胞体膜に局在するDNAJB12の生理機能解析」というテーマで構造異常タンパク質の分解機構について研究を行いました。所属していた河野研究室は研究活動に対して個人の裁量に任せてもらえる部分が多く、非常に伸び伸びとした研究生活を送ることができました。メンバーもそのような環境を楽しめる方々ばかりで、常にどこかでディスカッションが繰り広げられ、深夜まで実験に没頭し、疲れたら皆でラーメンを食べに行く、といった院生生活を存分に謳歌した2年間でした。
大所帯の河野研では複数で協力して研究を進めることが基本でした。そのおかげで、それぞれ秀でた能力を持つメンバーと密接にコミュニケーションを取るようになり、「わからないことは積極的に質問する」「先輩とディスカッションすることは当たり前」「自分の研究をわかりやすく伝える」といった感覚が自然に身に付きました。私が現在所属している製品開発部は他の部署と協力して進めていく案件が非常に多いため、当時培ったそのような姿勢・性格が今、チームワークという形で役立っていると感じています。
奈良先端大では科学英語特別演習として学生をカリフォルニア大学デービス校 (UC Davis)に派遣しています。私はそのメンバーとして、M2の夏にUC Davisで英語研修及びバイオベンチャー企業訪問を行うことができました。特に、学生が自らテーマを設定して、そのトピックに関して現地の方にアポ取りとインタビューを行うという授業では、面識のない人とコンタクトをとる術や内容を簡潔に説明する方法を学びましたし、何より度胸がつきました。またプレゼンテーションでは、聴衆一人ひとりに確実に理解してもらえるように語りかけること、笑顔を絶やさず表情豊かな発表を行うことを学び実践しました。それらはすべて、発表が一方通行のものではなく「コミュニケーションである」という考えによるもので、このような事例を含めてインターナショナルスタンダードな考え方や手法に触れられたのは、とても有益なことでした。
このように私の奈良先端大での2年間は、研究活動だけでなくその後のキャリアを積んでいく上でもとても充実した日々だったと確信しています。これからも是非多くの学生の皆様が、この素晴らしい環境を活用して羽ばたいていって欲しいと願っています。
【2014年06月掲載】