卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
楠本 正博 さん
- 動物衛生研究所 安全性研究チーム
- 1995年度(修士) 生体高分子構造学
学生時代に聞いた言葉や教えていただいたことを、いつの間にか自分が言うようになりました。
私は1994年、大阪大学薬学部を卒業後バイオサイエンス研究科の第1期生として入学し、箱嶋敏雄教授の構造生物学研究室でタンパク質・核酸複合体の結晶構造解析を研究テーマとして、ご指導いただきました。博士前期課程を終え、1996年4月に東洋紡績(株)敦賀バイオ研究所に就職、2008年10月に(独)農研機構・動物衛生研究所に転職し、現在に至ります。
東洋紡では体外診断薬用酵素を開発する研究チームに配属され、奈良先端大で学んだ分子生物学や構造生物学などの知識を活かす・・・はずでした。ところが入社した1996年の夏、大阪府堺市をはじめ全国で腸管出血性大腸菌O157感染症が大流行し、患者数が1万人を超え社会問題になりました。研究所長の一声で、1年目の私がO157に関する研究開発を担当することになり、社内外の色々な方から教えを受けながら、学生時代に縁のなかった細菌学や臨床検査技術の習得、さらには企業における研究開発、製造、販売の流れを一から勉強し、市場調査から製品化までを無事に終えることができました。当時は「この先進国で大腸菌による死者が出るのか」と大変驚きましたが、いま思えば、これが私にとって研究者としてのスタートだったのかもしれません。東洋紡に在籍した11年半の間に基礎から応用まで様々な研究テーマを担当しましたが、それらの仕事と並行してO157ゲノムの多様化に興味を持って研究を続けていたところ、いつの間にかライフワークのようになってしまいました。
幸運なことに、動物衛生研究所に転職した際に研究テーマごと受け入れていただましたので、現在もO157ゲノムの多様化に関する研究を続けることができています。最近やっと、メジャー誌に成果を公開することができました(Nat. Commun. 2011, 2:152)。細々と続けてきた研究テーマが世間に認知されただけの段階ですが、継続の大切さを改めて実感しているところです。
私が学生だった当時の箱嶋教授の年齢を超えた今では、人にものを教える機会も自然と多くなりました。面白いことに、学生時代に箱嶋教授から聞いた言葉や教えていただいたことを、いつの間にか自分が言うようになりました。研究に必要なスキルはテーマ次第で変わってしまうことがありますが、奈良先端大ではもっと研究者として基盤的なところから学んでいたんだな・・・と思い知らされる瞬間が年々増えています。今更ながら、私の学生時代に教員だった皆様に感謝するとともに、奈良先端大で学ぶことができて良かったと思っています。
【2011年09月掲載】