卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -
中神 弘史 さん
- 理化学研究所 植物科学研究センター 植物プロテオミクス研究ユニット ユニットリーダー
(→ドイツ マックスプランク研究所 グループリーダー) - 1999年度(博士) 植物代謝調節学
研究者を目指している皆様、「世界を意識する」ことを大切にして下さい。
私は博士後期課程から奈良先端大に進学し、植物代謝調節学講座(新名研時代)(現:植物代謝制御研究室)にて学位を取得しました。その後、ウィーン大学にてポスドク生活を満喫し、理化学研究所にて研究員を経て、現職に至っています(詳細はhttp://www.csrs.riken.jp/jp/labs/ppru/index.htmlをご覧下さい)。奈良先端大への進学は、「植物で分子生物学を学べる研究室に行きたい」と所属研究室の教授に相談したところ、新名先生を紹介していただけたからです。不勉強な私は、当時、奈良先端大の存在すら知りませんでした。卒業後の進路も、「海外で研究したい」という漠然とした動機のみで選択しました。行き先は、「面白い論文を出している」「ヨーロッパ」の2つのキーワードで絞り込み、数回のメール交換のみにて受け入れを快諾してくれたHirt教授の研究室へと旅立ちました。Hirt教授とは全く面識がなく、ウィーンで会うまで教授の年齢さえ全く知りませんでした。帰国に関しては、「お世話になった某先生の何気ない一言」「世界レベルで叩き上げのボスが日本で研究室を起ち上げる」という2つの要素が偶然重なり決断しました。振り返ってみますと、重要な節目においてキャリア形成のことなど考えもしない、研究者として「無謀」な道を歩んできました。いまの自分があるのは、偏に素晴らしい先生・ボス達に巡り会えたこと、そして多少の運に恵まれたことに尽きます。
私に訪れた幸運が皆様にも均等に訪れれば言うことはないのですが、やはりビジョンを持って行動することをお勧めします。幸いにも周囲に生かされてきた私が、異なる分野と環境の研究室を転々としたことで気付いたことは、自分の視野が如何に狭かったかということです。世界基準で物事を捉えることにより、個々の研究に対する見方、価値観が一変し得ることを学びました。本当に素晴らしい研究は、個性的な輝きを放っており、必ず見るべき人達の目に留まっています。決して、「素晴らしい研究」=「著名な雑誌に掲載された研究」ではありません。私はその輝きの源が「世界基準でのユニーク性」「世界規模でのデマンドの理解」にあると考えています。そして、キラリと光る研究を手掛けた面々は、自然と良いポストを得ています。がむしゃらに目の前の研究テーマに没頭するのではなく、常に世界に目を開きつつ研究分野の開拓・創造を意識して舵取りをすることで、研究者としてのキャリアパスも自ずと開けてくるのではないでしょうか。
世界に通じる「キラリ」を理解するには、世界レベルの研究が溢れている環境に身を置き、目で見て肌で感じて研究の醍醐味を直に味わうことが、近道だと思います。奈良先端大では、世界の第一線で活躍されている先生方が数多くおられ、海外の著名な研究者と交流する機会も多く設けられています。研究者を目指す人達にとって、絶好のスタートを切れる場所の1つではないでしょうか。研究者としてのスケールアップには、時として「無謀」ではなく、ある程度のビジョンと志を持って「冒険」することが必要です。大学院もしくは大学院の途中から大学を移ることを、決して恐れたりマイナスに捉えたりしないで下さい。さらに出来れば、ここに書くと怒られてしまいますが、大学院からでも海外に飛び出してチャレンジして下さい。日本と海外では驚くほど研究環境(研究文化)が異なります。一長一短があり、善し悪しの判断はできませんが、世界を舞台とする研究者にとって日本を含めた世界の研究の有様を知ることは大変意味があります。私自身、研究者としてまだまだこれからです。皆様に負けないよう、世界を意識して冒険します。そして素敵な輝きを宿した研究者になった皆様と出会い、一緒に研究する日が訪れることを楽しみにしています。
最後に、奈良先端大での関根先生(現石川県立大教授)との出会いなくして、研究者としての現在の私はありません。関根先生に改めて心から感謝の意を表するとともに、皆様にも素敵な出会いがありますよう願っています。Alles Gute!!
【2011年05月掲載】